遺留分侵害額請求の期間制限について
遺留分侵害額請求権とは、被相続人が特定の相続人に対して「全ての遺産を〇〇に譲る」といった、他の相続人に対して遺留分を侵害するような遺贈や贈与などをした場合、侵害を受けた遺留分権利者が財産をもらった者に対して自己の遺留分に相当する金銭の支払いを請求することをいいます。なお、遺留分減殺請求は、民法改正(2019年7月1日施行)により、「遺留分侵害額請求」と呼ばれるようになりました。
注意しなければならないのが、遺留分侵害額請求ができる期間には限りがあります。また、遺留分侵害額請求を行った後にも時効があります。
では、遺留分を侵害されたら、請求期限はいつまでになるのでしょうか?遺留分侵害額の請求期限について、解説します。
目次
遺留分侵害額請求の消滅時効と除斥期間について
遺留分侵害額請求権には3つの時効と除斥期間があります。
1つ目は、遺留分権利者が①相続の開始と、②遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から、1年以内に遺留分侵害額請求権を行使しなければ、時効によって権利が消滅します。
2つ目は、遺留分権利者が相続開始を知ってから1年間に当てはまるとしても、相続開始の時から10年が経っている場合には、時効によって権利が消滅します。
3つ目は、遺留分侵害額請求を行った後、遺留分侵害額請求を行使してから5年間たつと、金銭支払請求の権利が消滅します。
遺留分侵害額請求権の消滅時効(1年) |
・相続が開始したこと ・遺留分が侵害されていること の両方を知ってから1年 |
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遺留分侵害額請求権の除斥期間(10年) | 相続が開始してから10年 |
金銭債権の消滅時効(5年) | 遺留分侵害額請求を行使してから5年間 |
それぞれについて詳しく解説します。
時効は相続開始と遺留分侵害を知ってから1年
遺留分侵害額請求の消滅時効は、相続が開始したこと、遺留分が侵害されていること(侵害されていたこと)の両方を知ってから1年です。1年を過ぎると、侵害された遺留分を請求するための権利が消滅します。ただし、1年の消滅時効については、遺留分侵害を請求される人が消滅時効を主張しなければ、時効を迎えた後も請求が可能となります。 時効は、相手方に遺留分侵害額請求をした時点で止まります。
消滅は相続開始から10年
遺留分侵害額請求権は、たとえ相続が開始したことと、遺留分を侵害するような遺贈や贈与などがあったことを知らなくても、相続(被相続人が亡くなってから)を開始してから10年が経過すると消滅します。この期限を除斥(じょせき)期間と呼びます。基本的には、除斥期間は止めることはできません。
遺留分侵害額請求を行使してから5年の時効
遺留分侵害額請求を行うと、遺留分侵害額を金銭で支払うように請求する「金銭支払請求権」が発生します。この金銭支払請求権にも時効があります。金銭支払請求権は、原則5年で時効にかかってしまいます。そのため、遺留分侵害額請求権を行使しても、安心してしまい、そのまま5年間何もせずにいると、金銭請求はできなくなってしまいます。消滅時効に気を付けながら回収できるように動く必要があります。遺留分侵害額請求を行使してから5年という期間を覚えておいてください。そのため、5年以内に裁判上の請求をして時効を止めておくべきといえます。
なお、厳密にいえば、遺留分侵害額請求権を行使した時期によって時効期間が変わります。2020年4日1日施行の改正法で消滅時効のルールが変わりました。そのため、2020年3月31日以前に行使していれば10年、同年4月1日以降に行使していれば5年が時効となります。
遺留分侵害を知ったら時効を止める手続きを!
もし、遺留分を請求する権利の時効を迎えてしまうと遺留分を受け取ることが難しくなります。そのため、時効を止める手続きについてしっかりと理解しておく必要があります。
遺留分侵害額請求権の時効(1年)を止める方法
相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内に相手方に、遺留分を請求する意思表示を行ことで時効は止まります。 具体的には、遺留分侵害額請求をすることになります。 遺留分侵害額請求は、口頭などでも行うことができます。 しかし、遺留分侵害額請求をした「証拠」を残しておかないと、後になって相手から「時効が成立している」と主張され、争えなくなる可能性がでてきます。そこで遺留分侵害額請求をするときには、配達証明付内容証明郵便で遺留分侵害額請求書を送ることが確実な証拠となります。 なお、複数人に多額の贈与・遺贈が行われている場合には、誰に意思表示をすべきか判断が難しいこともあります。意思表示すべき相手を見落としてしまい時効が完成しないように気を付ける必要があります。
配達証明付内容証明郵便には、下記項目を記載します。
- 請求をする本人と相手方
- 請求の対象となる遺贈、贈与、遺言の内容
- 遺留分侵害額を請求する旨
- 請求の日時
【記載例】
XXXX年XX月XX日
甲野次郎殿
私は、甲野一郎(○年○月○日(相続発生年月日))の相続人ですが、貴殿が被相続人甲野一郎から令和5年8月18日付遺言書により遺贈を受けたことによって私の遺留分が侵害されていますので、遺留分侵害額の請求を致します。
通知人:神奈川県藤沢市△△〇〇 甲野太郎
被通知人:神奈川県茅ケ崎市○○×× 甲野次郎
遺留分の除斥期間(10年)を止める方法はあるのか?
遺留分の除斥期間を中断させる方法・停止させる方法・更新する方法はありません。そのため、相続開始から時間が経ってから遺留分を主張する場合には、除斥期間である10年以内に必ず請求しなければいけません。
金銭支払請求権の消滅時効(5年)を更新する方法
金銭支払請求権の消滅時効を更新する方法としては、金銭の支払いを求める裁判を起こす方法があります。 裁判を起こすことで、消滅時効を振り出しに戻すことができ、新たな消滅時効としてその時点から5年の時効が進行します。 また、相手が金銭を支払う義務があることを認めた場合にも、その時点で時効は振り出しに戻ります。ただし、相手が承認した時点からさらに5年が経過すると再び時効を迎えます。
遺言書の無効を主張する場合にも時効には注意が必要です
遺言書に不正があるとわかった場合や遺言書の内容が不当であると疑問をもたれた場合には、遺言書の無効を主張し、争うケースがあります。 注意しなければいけないのが、遺言書の無効について争っている間も遺留分侵害額請求権の時効は、進行してしまう可能性があります。 遺言を無効にしたいときは、相続人全員の合意を得て、遺言の内容に縛られること無く、遺産分割協議(交渉)ができる場合、交渉(話合い)によって合意が得られなければ、調停や訴訟という法的手続に移行して争う場合があります。 もし、遺言無効確認訴訟で遺言の無効が認められなかった場合、いざ遺留分侵害額請求をしようとしても、消滅時効を迎えていると判断されて遺留分すら請求できないといった事態が生じてしまうおそれがあります。 そのため、遺言の無効を争うとしても、予備的に遺留分侵害額請求権を行使しておくことが大切です。
最高裁判所昭和57年11月12日第二小法廷判決では、「事実上及び法律上の根拠があって、遺留分権利者が遺言の無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともだと首肯しうる特段の事情が認められない限り、時効は進行する」と判示しています。すなわち、遺言の無効が争われていても、原則的に時効は進行し、例外的に「特段の事情」が認められる場合に限って時効は進行しないということです。
遺留分の時効問題については弁護士にご相談ください
遺留分には「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年間」という時効があります。1年という期間は、あっという間に過ぎてしまいます。 遺留分侵害額請求をしようかどうか迷っている段階でも弁護士に相談してみることで、ご自身の考えを整理することもできます。 また、遺留分の時効の始まりがいつになるか判断したり、遺言書の無効請求と並行して遺留分侵害額請求の準備をしていくなど、遺留分の請求は考え方が複雑で分かりにくいものです。
遺留分の時効問題について不安がある方は弁護士に一度ご相談ください。 弁護士法人シーライトでは、ご相談を受け付けております。 お電話もしくは、お問い合わせページよりご連絡ください。
代表弁護士 阿部 貴之
神奈川県弁護士会所属。弁護士登録後、都内総合法律事務所、東京都庁労働局等を経て、平成27年に弁護士法人シーライトを開設。依頼相続トラブルの相談実績は400件を超える。「依頼者の良き伴走者となるために」をモットーに、スタッフと共に事件解決へ向かって邁進中。好きな言葉は「二人三脚」「誠心誠意」。弁護士紹介