遺産分割協議書
遺産分割協議書とは何か
遺産分割協議書とは、全ての相続人が遺産分割協議で合意した内容を書面に取りまとめた文書のことです。
文面を作成後に、全ての相続人が署名押印をする必要があります。
遺産分割協議書は、なぜ必要か
遺産相続が起こった際、相続人が1人の場合にはその人がすべての遺産を相続します。
しかし、相続人が複数いる場合には、どの遺産を誰が相続するのかを決定しなければなりません。
その場合、相続人全員が集まって遺産分割協議という話し合いを行うことになります。
相続人全員が協議内容について合意できれば、遺産分割協議は終了します。
しかし、どのような内容で合意したのかを明らかにしておかないと、しばらくして、相続人の誰かが「そのような合意をしていない」、「合意した内容はこうだった」などと主張し始めるトラブルが起きるおそれがあるため、遺産分割協議書を作成し、合意内容を明確にしておきます。
こうすることで、遺産分割協議で決めた証拠を残すことになり、この協議書が証明書の役割を果たします。
最も重要なことは、誰が何を相続したのか、遺産分割協議書上の記載だけで読み手にわかるように、明確に特定して記載するという点です。
また、不動産の相続登記や預貯金・株式・自動車の名義変更の手続きは、遺産分割協議書を作成しなければ行うことができないため、作成が必要となります。
遺産分割協議書が必要なケース
相続が起こっても、必ずしも遺産分割協議書が必要になるわけではありません。
遺産分割協議書を作成するのは、相続人同士で遺産分割協議が行われたケースに限られるためです。
①遺言書の中で、一部の相続財産しか指定されていない場合
民法第908条【遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止】により、遺言書で指定がなされている場合には、原則としてこれに従って分割を行います。
しかし、遺言があっても、内容が一部の相続財産についてしか指定されておらず、残りの相続財産に関しては法定相続人が話し合いで相続方法を決める必要がある場合には、その残りの相続財産分について遺産分割協議が必要となり、遺産分割協議書を作成する必要もあります。
すべての相続財産について遺言による指定がされていた場合
ちなみに、すべての相続財産について遺言による相続分の指定がされていても、相続人全員が合意してそれと異なる分割方法を定めることは可能です。
その場合には、やはり遺言があっても遺産分割協議が必要となり、遺産分割協議書を作成しなければなりません。
②遺言書がない場合
被相続人の遺言がない場合には、法定相続人全員による遺産分割協議を行い、まとまった内容に基づいて遺産分割協議書を作成することになります。
③相続人が複数いる場合
遺産分割協議書が必要になるのは、相続人が複数人いる場合です。
もし、遺言がなくても、相続人が1人の場合には、その相続人がすべての相続財産を相続することになるので、遺産分割協議をする必要がありません。そのため、遺産分割協議書を作成することもありません。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書の作成は、手書きでもパソコンでの作成でもどちらでも構いません。
遺産分割協議書のひな形は、インターネット上にも多数ありますが、定義が不明確であったり、解釈が一義的でなかったりするものも散見されます。
ご自身で遺産分割協議書を作ったけれども、それぞれが自分勝手に解釈できてしまう可能性のある協議書ですと、次の紛争の火種になりかねません。作成された遺産分割協議書に不適切な内容が含まれていないかなどを、弁護士にご相談されることをおすすめします。
遺産分割協議書の作成時の注意点
遺産分割協議書を作成する際の注意点をご紹介します。
①被相続人の名前、相続開始日、本籍地および相続人の名前を明記する
誰の相続に関する協議書なのかが一見でわかるように、「被相続人故〇〇〇〇」と記載します。
被相続人の死亡年月日の記載は必須ではありませんが、「昭和〇年〇月〇日死亡」などと記載することが通例です。
被相続人の本籍地や最後の住所地を記載も必須ではありませんが、記載することが多いです。
また、相続人であることがわかるように「相続人〇〇〇〇」と記載します。
被相続人との続柄は必須ではありませんが、読みやすさを考えて、「相続人(妻)〇〇〇〇」というように記載することもあります。
②相続人が合意したことを明記する
誰を被相続人とする相続財産について、誰と誰が相続人として合意したのかを明記します。
③誰が何を相続したか、相続財産の表示方法に注意し明記する
誰が「何を」取得するのか、明確に特定できている記載となっているか注意が必要となります。
あいまいな記載では、相続人の間での紛争の種となりますし、相続財産の名義を変更する際の資料として機能しないからです。
土地
土地は、所在・地番・地目・地積で特定します。そのため、住所ではなく、登記簿(登記事項証明書)に書かれているとおりに記載しましょう。
建物
建物は、所在・家屋番号・種類・構造・床面積で特定します。そのため、住所ではなく、登記簿(登記事項証明書)に書かれているとおりに記載しましょう。
預貯金
預貯金は、金融機関名、支店名(貯金では不要)、預金種類、口座番号(貯金は記号番号)を記載しましょう。
また、預貯金額をどこにどのように記載するかは事案によりケースバイケースです。
有価証券類
株式は、会社名、株式の種類、株式数を記載しましょう。
国債は、商品名、額面、取扱会社を記載しましょう。
年月日、各相続人が署名・住所を明記し、押印をする
年月日
遺産分割協議書の年月日は、書面の作成日とするのが通常です。
署名・住所
署名・住所は記名(印刷)や署名代理は避けて、紛争を防止するという趣旨からは自署がおすすめです。 また、住所に関しては、住民票上の記載と一字一句同じに記載しましょう。
押印
押印の印鑑は必ず実印を使いましょう。
印鑑は実印でないと、遺産分割協議書に基づいて不動産登記や銀行口座の名義変更や預金の払戻しなどの各種手続をすることができません。
なお、遺産分割協議書に捨て印は絶対に押してはいけません。
遺産分割協議書が複数枚にわたるときは、必ず割り印を実印で押してください。
遺産目録を別紙とする場合も、遺産分割協議書と遺産目録に割り印が必要です。
遺産分割協議書は、相続人の数だけ作成する
遺産分割協議書は、相続人の数と同じ通数を作成し、相続人全員が実印で割印をした後、各自一通ずつ原本を保管しましょう。
代償分割の書き方
代償分割とは、遺産分割で相続人の1人が法定相続分を上回る相続財産を取得することになった場合に、その相続人から損をする相続人に対して不足分の金銭(代償金)を支払うことで、不公平を是正する分割方法です。
代償分割の記載方法ですが、代償金として支払うものであることが明確になるよう記載しておくようにしましょう。
理由は、税務署から贈与ではないかと疑われることを避けるためです。
相続人に未成年者がいる場合
相続人に未成年者がいる場合、未成年者は法的に遺産分割協議ができません。
そのため、未成年者が他人と契約をする場合には、親権者が法定代理人となって未成年者の代わりに契約をすることになります。
未成年者の法定代理人は、通常その未成年者の親となります。しかし、たとえば未成年者の父が死亡した場合に開始する相続では、未成年者とその母が同順位の相続人となります。
この場合、母が相続放棄をしない限り、母と未成年者の双方が相続人となり、これを利益相反とよび、母が未成年者の法定代理人として遺産分割協議をすることはできません。
そうなった場合には、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければなりません。
また、父が死亡した際、未成年者が2人おり、母が相続放棄をした場合には、2人の未成年者を母が1人で代理することはできません。
こういった場合には、未成年者のために、特別代理人を選任しなければなりません。
①親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
②親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
特別代理人の選任のためには、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。申し立てることができるのは、未成年者の親権者や後見人、利害関係人となります。
相続人に認知症の人がいる場合
相続人に認知症の人がいる場合、すぐに遺産分割協議を進めることはできません。
まず、成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立て、民法859条で定められているように、その成年後見人を交えて遺産分割協議を行う必要があります。
また、民法860条、826条で定めている通り、もしすでに成年後見人がついていても、その成年後見人が相続人である場合には、成年被後見人の住所地の家庭裁判所に対し、特別代理人の選任を求める必要があります。なお、申し立てることができるのは、成年後見人と利害関係人となります。
ただし、後見監督人が選任されている場合は、後見監督人が被後見人を代表する(民法851条4号)ため、特別代理人の選任は不要となります。
①後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
②第824条ただし書【子の行為を目的とする債務と本人の同意】の規定は、前項の場合について準用する。
第826条【親権者と子の利益相反行為】の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
後見監督人の職務は、次のとおりとする。
一 後見人の事務を監督すること。
二 後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること。
三 急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること。
四 後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること。
遺産分割協議書の添付書類
遺産分割協議書それ自体には、特に添付書類というものはありません。
しかし、遺産分割協議書に押した印鑑が実印であることを示すために、相続人全員の印鑑証明書を添付するとよいでしょう。
また、不動産登記、預金、有価証券などの名義変更手続きを行う場合には、遺産分割協議書だけでは受け付けてもらえません。
例えば、登記名義の変更では、遺産分割協議書の他に、共同相続人全員の印鑑証明書、戸籍謄本類、住民票が必要です。
遺産分割協議書の作成でお困りの方は、弁護士にご相談ください
以上のように、遺産分割協議書は、不動産登記、預金、有価証券の名義変更など様々な場面で必要となります。また、遺産分割協議書を作成するとき、未成年者や認知症の人などがいる場合には、そのまま署名押印してもらえばよいというものではありません。間違ってしまうと、有効に遺産分割協議書を作成することができなくなるため注意が必要です。
遺産分割協議書の作成についてお困りの方は、弁護士法人シーライトにご相談ください。
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