養子縁組の解消手続と合意を得られない場合の対処方法
養子縁組とは、実際の親子関係がない人物と法律上の親子関係となる制度です。養子縁組を行うと、養親は養子に対して扶養義務を負うことになります。また、養親と養子はお互いに相続権を持つ法定相続人になります。
たとえば、結婚した相手に連れ子がおり、その連れ子と養子縁組をしたものの、配偶者と離婚することになった場合には、連れ子との親子関係は解消されることなく継続されます。この養子縁組は、手続によって解消しなくてはなりません。
今回は、養子縁組を解消する方法や解消についての話し合いがまとまらなかった場合の対処方法などについて解説します。
目次
養子縁組について
養子縁組とは、親子関係のない者同士について法律上の親子関係を結ぶための制度です。養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。
普通養子縁組とは
普通養子縁組は、養子となった子どもと実親との親子関係が継続されたまま、他の人と法律上の親子関係を結ぶ養子縁組のことです。そのため、普通養子縁組の場合は、養親が亡くなったときと実親が亡くなったときのどちらとも子どもには相続権が発生します。
普通養子縁組をする場合、以下の要件を満たしている必要があります。
- ① 養親が20歳以上であること
- ② 養子が尊属又は年長者ではないこと
- ③ 後見人が被後見人を養子とする場合には、家庭裁判所の許可を得ること
- ④ 配偶者のある者が未成年者を養子とする場合、原則として、夫婦共同で養親となること
- ⑤ 配偶者のある者が縁組をする場合、原則として、他方配偶者の同意を得ること
- ⑥ 15歳未満の者を養子とする場合、養子の法定代理人の承諾を得ること
- ⑦ 未成年者を養子とする場合、原則として、家庭裁判所の許可を得ること
特別養子縁組とは
特別養子縁組は、養子と実親との法的な親子関係を解消させて、養親と法律上の親子関係を結び養子を実の子に近い扱いをするものです。特別養子縁組は、養子になる子どもへの影響が大きい制度のため、家庭裁判所に特別養子適格の確認の申立てと特別養子縁組成立の申立てが必要となります。
特別養子縁組の成立の要件としては、以下の要件を満たしている必要があります。
- ① 原則として、養親となる者が夫婦共同で縁組をすること
- ② 養親となる者に配偶者がいること
- ③ 一方の養親が25歳以上であり、もう一方の養親が20歳以上であること
- ④ 原則として、養子が15歳未満であること
- ⑤ 原則として、実方の父母の同意を得ること
- ⑥ 子どもの利益のための特別の必要性があること
養子縁組の解消について
養子縁組の解消というのは、養子縁組によって成立した養子と養親の法的な親子関係を消滅させる手続のことです。養子縁組によって発生していた養親と養子の間での相続権や扶養責任などが養子縁組の解消により、すべて終了します。逆に言えば、養子縁組を解消しない限りは、親として養子に扶養義務を負い続けることになります。
養子縁組を解消しない場合はどうなるのか
結婚当時、結婚相手の連れ子を養子縁組し、離婚後も養子縁組を解消せずにいた場合、収入状況に応じて養育費を払わねばなりません。
また、養子縁組を解消しない場合には、養子と養親は、お互いに相続権を持っています。もし養親が死亡した際に配偶者がおらず、養子にした連れ子以外に子どももいないときには、連れ子がすべての遺産を相続することとなります。もし、養親の死亡時に実子がいた場合には、実子と養子とが遺産を相続することになります。その際に、相続をめぐって両者で争いが発生する可能性もあります。連れ子や養子だからといって相続分を減らされることはなく、実子とまったく同等の相続分が認められます。もし、被相続人である養親が有効な遺言を遺していない場合には、法定相続人全員で、遺産分割協議をしなければなりません。そのため、養親の配偶者や実子と連れ子が法定相続人の場合に、協議の中で意見が合わずに争いに発展する可能性があります。
かといって有効な遺言書を作成すれば配偶者や実子だけに多くの遺産を相続させることもできますが、忘れてはいけないのが、養子にも認められている遺留分があるので、遺留分侵害額請求によるトラブルが起きることもあります。反対に養子である子どもが、養親より先に死亡してしまい、その養子に子どもがいなければ、養親が子どもの遺産を相続することになります。離婚が成立している場合であっても、元配偶者や養子である子どもの配偶者と遺産分割協議をしなければならないこともあるので、そういったときにも、もめてしまう可能性があります。
このようなトラブルを避けるためにも、養子縁組の解消を検討している場合には、早めに対応しておく方がいいといえます。
養子縁組の解消前に、養子または養親が亡くなってしまった場合
養子縁組を解消する前に養子または養親が亡くなってしまった場合には、家庭裁判所の許可を得て養子縁組の解消をすることはできます(死後離縁)。
しかし、死後離縁前に発生した相続権は死後離縁をしても影響を受けません。そのため、相続させるのを防ぎたいなどの理由で養子縁組の解消を検討しているならば、早めに適切な手続を行う必要があります。
養子縁組の解消方法
養子縁組を解消することを離縁といいます。
この離縁手続には、協議離縁、調停離縁、審判離縁、裁判離縁があります。離縁をするための要件は、普通養子縁組と特別養子縁組では、違いがあります。
普通養子縁組の解消手続について
協議離縁
養親もしくは養子が離縁を拒否しており、協議では離縁が成立しない場合は、家庭裁判所に離縁調停を申立てることができます。 調停離縁は、調停委員と裁判官の仲介のもと、養親と養子の話し合いによって合意を目指す手続になります。 調停が成立すると、調停調書が作成されます。調停調書の謄本を家庭裁判所に申請して取得し、役所に持参して離縁届を提出します。 なお、離縁届は調停成立の日から10日以内に出さなければなりません。
審判離縁
審判とは、家庭裁判所が離縁に関する争いを判断する手続になります。審判においては、裁判官が双方の主張や証拠を考慮して公正な判断を下します。 調停でおおむね離縁することに合意できているのに、相手が諸事情で裁判所に来られなくなった場合や調停を経ても当事者間に合意が成立しない場合などで、家庭裁判所が離縁を認めるのが相当と判断されるケースでは、審判によって離縁が認められることもあります。 審判が成立した場合、家庭裁判所から審判書が届きます。その後、審判の確定手続が行われ、当事者双方が審判書を受領してから2週間が経つと審判が確定します。 審判が確定した後、確定証明書を入手するために裁判所に申請します。 確定証明書は、審判の結果が確定したことを証明する文書になります。 そして、審判書と確定証明書を役所に持参し、離縁届を提出することで離縁が成立します。 審判離縁は、当事者から異議申立てがあると離縁の効力が失われてしまいます。
裁判離縁
調停での協議や一方当事者の異議申立てにより審判の効力が否定されてしまった場合には、離縁の訴えを提起し、裁判離縁を求めていくことになります。 ただし、裁判で離縁が認められるには、以下の「法律上の離縁理由」が必要です。
他の一方から悪意で遺棄されたとき
親子の関係を破綻させる意図で、相手を見捨てることをいいます。 養親は通常連れ子を扶養すべき義務を負っているものです。そのため、連れ子から悪意で遺棄されることは考えにくいです。
他の一方の生死が3年以上明らかでないとき
連れ子が3年以上生死不明の状態が続いている場合には、縁組を解消できます。
その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき
たとえば連れ子が養親にひどい暴力を振るう場合などには、縁組を継続し難い重大な事由があると認められます。
「親同士が離婚したから養子には遺産を相続させたくない」という理由だけでは必ずしも裁判離縁を認めてもらえない場合もあります。もっとも、上記どれかの事由があった場合でも、事情を考慮して養子縁組を継続すべきと判断される場合には、離縁の請求が棄却されることもあります。訴訟で離縁が認められた場合には、判決書が送られてきます。当事者のどちらもが控訴しなければ、2週間後に離縁が確定します。
裁判所に確定証明書の申請をして、判決書と確定証明書を役所に持参し離縁届を提出します。
訴訟提起後、判決に至る前に相手方が離縁の要求を認める認諾離縁や、双方の和解による和解離縁によって離縁が成立することもあります。認諾離縁の場合は認諾調書を、和解離縁の場合は和解調書を提出することになります。
特別養子縁組の解消手続について
特別養子縁組においては,次の要件を全て満たす場合のみ、養子、実父母又は検察官の請求により家庭裁判所が審判によって離縁させることができます。
- ① 養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること
- ② 実父母が相当の監護をすることができること
- ③ 養子の利益のため離縁をすることが特に必要であると認められること
養子縁組の解消を承諾してもらえない場合
合意がもらえない場合の対処方法としては、下記の方法を行います。
- 1.離縁調停
- 2.裁判による離縁
養子が15歳以上の場合は、本人に養子縁組の解消を望んでいる旨を伝えます。養子が同意しない場合には、家庭裁判所に離縁調停の申立てを行います。養子が15歳未満の場合は、養子縁組の解消後の親権者となる実父母と話し合いをします。なお、話し合いで解決しなかった場合には、調停や裁判へ進む場合、相手方は実父母となります。調停や裁判による離縁についての手続については、前述したとおりとなります。
養子縁組を解消したいのに相手と連絡を取れないときは、どうしたらよいのか
連れ子との養子縁組を解消したいと考えているけれど、相手と連絡を取れない場合にはどうしたら良いのでしょうか。
まずは、戸籍附票を取得して子どもの住所を調べることからスタートします。養親であれば、養子である子どもの戸籍附票を取得できる可能性があります。戸籍附票には、子どもの現在の住所が記載されているので、そちらの住所の方へ手紙などを送ります。 戸籍附票は、本籍地を管轄する役所で申請すれば発行してもらえます。
ただし、もし離婚し、元配偶者が連れ子の籍を養親の戸籍から抜いてしまっている場合には、連れ子の戸籍附票を取得できない可能性が高くなります。
養親自身で戸籍附票を取得できない場合には、弁護士に依頼して住所調査を行う必要があります。また、離縁調停を申し立てるときにも、相手の住所情報が必要になります。調停の家庭裁判所の管轄は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所となるため、住所不明の場合には申立先の裁判所も確定できないため、家庭裁判所は調停を受け付けてくれません。
もし、養子と離れて暮らしている場合などには、住所調査をしてから調停申立の準備をして、手続を進めていく必要があります。
養子縁組を解消すると養子はどうなるのか
養子の名字について
養子縁組を解消した場合、養子の名字が養子縁組前の名字に戻ります。ただし、養子縁組から7年以上が経過していれば、離縁から3か月以内に所定の手続をすることで、養子縁組時の名字を引き続き名乗ることが可能です。
養子の戸籍と養親の戸籍について
養子縁組中、養子は養親の戸籍に入っています。養子縁組が解消されると、養子は養親の戸籍からは抜けて、元の戸籍に戻るか、新しい養子のみの戸籍を編成するかを選択します。
養子縁組を解消した場合、養親の戸籍には、「○月○日養子縁組解消」と書かれて養子縁組解消をした日付が記載されます。
養子縁組の解消を検討している場合には、弁護士にご相談ください
養子縁組の解消について当事者同士で話し合いを行ってもうまく解決できない場合があります。
もし協議離婚で双方の合意ができない場合には、調停や裁判に進むことになります。このような場合には、解決までに時間がかかってしまい、その間に相続が発生してしまうことも考えられます。相続が発生して養子が財産を相続することで、被相続人の希望どおりの相続にならない恐れがあります。そのような状況を避け、養子縁組の解消を早めに完了するためにも、弁護士へご相談いただくことをおすすめします。
弁護士に依頼することで、ご自身に代わり各種手続やご依頼者様の代理人として、相手方と話し合いを円滑に進めたり、調停、訴訟の代理を務めたりすることが可能です。特に裁判においては、離縁の要件が認められるかが重要な点になります。感情的対立が起きることも多く、激しい紛争になることがあります。弁護士であれば、裁判例を引用するなどして説得力のある主張をしていくことができ、養子縁組の解消の実現に向けて対応することができます。
代表弁護士 阿部 貴之
神奈川県弁護士会所属。弁護士登録後、都内総合法律事務所、東京都庁労働局等を経て、平成27年に弁護士法人シーライトを開設。以来相続トラブルの相談実績は400件を超える。「依頼者の良き伴走者となるために」をモットーに、スタッフと共に事件解決へ向かって邁進中。好きな言葉は「二人三脚」「誠心誠意」。弁護士紹介