遺言書を無効にする方法とは?遺言書が無効になるケースと合わせて解説
親が遺言書を残してくれたけれど、法律で定められた形式の要件を充たしていなかったせいで遺言書が無効となってしまったというケースがあります。
また、「母は晩年認知症だったので、遺言が書けるはずがない」といった遺言書の無効を主張したいというお問い合わせも多いです。
この記事では、遺言書が無効となってしまうケースと遺言書の無効を主張する方法について解説します。
目次
遺言が無効になるケース
遺言書は、厳格な方式を充たした書面だけが有効な遺言として扱われます。そのため、方式に従っていない単なるメモ書きのような場合には、無効とされてしまいます。
まずは、方式に違反があるかどうかを確認しましょう。また、遺言書が無効とされる基準は、遺言書の種類によって異なります。
遺言書には、「普通方式」の遺言書と「特別方式」の遺言書があります。
普通方式の遺言書は、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類に分かれます。
特別方式の遺言書は、①一般危急時遺言、②難船危急時遺言、③一般隔絶地遺言、④船舶隔絶地遺言の4つに分かれます。
特別方式の遺言書は、病気やケガで死が迫っている場合や船舶や飛行機で危機が迫っている場合など、緊急事態が起きている状況下での特別の遺言になります。このような遺言は、まれな事なので今回の記事では説明を省略させていただきます。
「普通方式」の遺言書について
1.自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が自筆で作成する遺言書です。費用をかけず手軽に作成できますが、自筆証書遺言は作成要件が細かく決められており、無効となりやすいので注意が必要となります。
方式として、
①全文を自筆で書くこと
②自書した作成日があること
③署名があること
④押印があること
が挙げられます。
また、変更については、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければならないとされています。
遺言書を発見した場合には、家庭裁判所で検認の手続きを経なければならず、封印してある場合には家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会いのもとに開封することになります。
自筆証書遺言が無効になるケースとは?
自筆証書遺言が無効となるケースとして、以下のものが一部として挙げられます。
①自筆で書かれていない
②日付がない、日付が曖昧な場合
③署名・押印がない
④遺言の内容が理解しずらい内容である
⑤訂正の仕方が間違っている
⑥共同で書かれている
⑦遺言能力がない
⑧公序良俗に反している
⑨第三者からの強要がなかったか
①自筆で書かれていない遺言書
遺言者本人が自筆で作成していないと遺言書は、無効になります。ただし、平成30年の民法改正により、自筆証書と一体となるものとして添付する財産目録については、自筆ではなく、パソコン、代筆、ワープロによる作成が認められるようになりました。
登記簿謄本や通帳のコピーを添付してもかまいません。
ただし、財産目録を自筆以外の方法で作成した場合は、全ページに署名・押印が必要になりますので注意してください。
なお、音声や動画等のデータによる遺言は、遺言書本文であっても財産目録であっても認められません。
②日付がない、日付が曖昧な遺言書
作成日が記載されていない遺言書は無効となります。また、「令和〇年〇月吉日」といった作成日が特定できない表記も無効となります。そして、日付もスタンプ印などを用いずに自筆しなければいけません。
③署名・押印がない遺言書
遺言者の署名・押印がない遺言書は無効となります。署名は、戸籍上の氏名をフルネームで記載するとよいでしょう。また、本物であることを証明する効力があると考えられることから、実印により押印し、印鑑証明書を遺言書に添付するのが望ましいでしょう。
④遺言の内容が不明確な遺言書
遺言書の内容が理解しづらい場合、無効となるおそれがあります。例えば、「私の不動産を子に譲る」と記載されていたとすると、不動産が複数存在する場合には、どの土地または建物を指すのか、子も複数名いれば誰のことなのか、譲るというのは「相続させる」と「遺贈する」のどちらなのかといった点ではっきりしていない場合、その遺言書は、無効となる可能性があります。
⑤訂正の仕方が間違っている遺言書
定められた方式どおりでない加入・削除・訂正は無効となります。また、訂正の内容と全体に占める訂正箇所の重要性によっては、遺言書全体が無効となるおそれがあります。
加入の方法
①加入したい箇所に、吹き出しで加入する箇所を指示し、その中に文言を書き入れます。そして、加入した箇所の近くに訂正印を押します。
②遺言書の末尾、あるいは加入箇所の近くに加入した内容を書き、署名捺印します。(例:2行目に「と不動産」の4文字を加入した。シーライト太郎)
削除の方法
①削除したい箇所に二重線を引き、消した文字が見えるように訂正印を二重線の近くに押します。
②消遺言書の末尾、あるいは削除箇所の近くに削除した内容を書き、署名捺印します(例:4行目の第2条全文を削除した。シーライト太郎)。
訂正の方法
①訂正箇所に二重線を引きます。修正テープやペンで塗り潰さないようにします。 次に、正しい文言を、横書きの場合は訂正箇所の上部に、縦書きの場合はその横に書きます。そして、訂正印を二重線の近くに押します。なお、訂正印は署名の横で押したものと同一の印鑑を用いましょう。
②遺言書の末尾、あるいは訂正箇所の近くに訂正した内容を書き、署名捺印します(例:3行目の「普通」を「定期」に訂正した。シーライト太郎)。
⑥共同で書いた遺言書
2名以上の人が同一の証書に遺言を残すことを「共同遺言」といい、民法で禁止されています。そのため、2名以上の人が共同で作成した遺言書は無効となります。遺言書は、単独で作成する必要があります。
⑦遺言能力がない場合
遺言能力とは、遺言の内容およびその遺言によって生じる法的効力を理解できる能力のことです。遺言能力がない人が作成した遺言書は無効となります。遺言能力が失われる例として、以下のものが挙げられます。
1.遺言者が認知症だったケース
遺言者が認知症のケースについては、認知症だからといって、一概に「遺言能力がない」とみなされるわけではありません。認知症の進行状況によって変わってきます。
2.遺言者が15歳未満だったケース
遺言を残すことができるのは、15歳以上と定められています。そのため、15歳未満の者が作成した遺言書は無効となります。また、遺言書は代理で作成することができないため、親権者である親が代理で作成したとしても認められません。
⑧公序良俗に反している
公序良俗に反するとは、常識から逸脱したような行為を行うことです。公序良俗違反として争われる代表例は不貞相手に遺贈する事例です。
たとえば、遺言書に、不倫相手へ全財産を遺贈すると書かれていた場合、公序良俗に反していると考えられ、その遺言書は無効と判断される可能性があります。
不倫相手への遺言が無効と判断される可能性がある理由としては、法律で定められた婚姻制度にもとづく「正妻」保護の必要性があるからです。
ただし、婚姻の実体がなかったり、あったとしても極めて形式的にとどまるときは、不倫相手(婚外交際)を保護して有効と判断したほうがよい場合もあります。そのため、遺贈が不倫関係の維持や継続を目的としているといえるか、遺贈が相続人の与える影響などの諸事情を考慮して公序良俗違反の有無が判断されます。
⑨第三者からの強要がなかったか
第三者から遺言者が脅迫されていた場合や、そそのかされて遺言書を書いたといった事情の場合には、その遺言は無効となる可能性があります。
2.公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言者が、公証人の面前で、2人以上の証人の立会いのもとで、遺言の内容を口頭で述べ、それに基づいて、公証人が、作成する遺言書です。法律の専門家である公証人が遺言を作成しますので、方式の不備で無効になるリスクは低いので、もっとも確実な遺言方法です。
公正証書遺言は、家庭裁判所で検認の手続きを経る必要がなく、相続開始後、速やかに遺言の内容を実現することができます。また、公正証書遺言の原本は、公証役場に保管されているので、遺言書が破棄されたり、偽造や改ざんの心配もありません。
ただ、公正証書遺言は、公証人と遺言者に加え証人2人の立ち会いが必要であり、費用もかかってしまう点がデメリットといえます。
また、証人の適格性や遺言者の遺言能力を審査することはないので、これらが原因となって無効になるおそれがある点に注意が必要です。
公正証書遺言が無効になるケースとは?
公正証書遺言が無効となってしまうケースとして一部以下のような場合があります。
①証人不適格者が立ち会った場合
②遺言能力がない状況で作成した場合
①証人不適格者が立ち会った遺言書
公正証書遺言の証人は、基本的には遺言者本人が手配します。
ただし、次に挙げる人は証人になることができません。
- □未成年者
- □遺言者が亡くなったら相続人になる予定の人(推定相続人)、その配偶者および直系血族
- □遺言によって遺贈を受ける人(受遺者)、その配偶者および直系血族
- □公証人の配偶者および四親等内の親族
- □公証役場の職員
もし、公正証書遺言の作成後に立ち会った証人が不適格者と判明し、「証人2名以上」という要件を充たしていなかった場合には、その遺言書は無効となります。
②遺言能力がない場合
遺言者に遺言能力があるかの判断は容易ではないため、遺言能力なく遺言書が作成されることもあり得ます。遺言能力がないと判断された場合には、その遺言書は無効となります。
3.秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言書の内容を秘密にしたまま、遺言書が存在していることについては公証役場に証明してもらえる方式です。
秘密証書遺言は、自筆でもパソコンやワープロ等でも作成することができます。
遺言者が、遺言の内容を記載した書面に署名押印をした上で、これを封じ、遺言書に押印した印章と同じ印章で封印した上、公証人および証人2人の前にその封書を提出し、自己の遺言書である旨およびその筆者の氏名および住所を申述し、公証人が、その封紙上に日付および遺言者の申述を記載した後、遺言者および証人2人と共にその封紙に署名押印することにより作成されるものです。
ただし、遺言内容に不備があると無効になってしまいます。
秘密証書遺言が無効になるケースとは?
秘密証書遺言が無効になるのは、以下のような場合が一部例として挙げられます。
①書式に誤りがあった場合
②遺言者に遺言能力がなかった場合
③遺言書に押された印と封筒の綴じ目に押された印が異なる場合
遺言書を勝手に開封したら無効になるの?
遺言書を勝手に開封しても、その遺言書が無効になることはありません。もし、誤って開封してしまった場合には、そのままの状態で家庭裁判所に提出し、事情を説明して検認手続を行います。
秘密証書遺言と、法務局以外で保管されていた自筆証書遺言は、開封前に家庭裁判所に検認を申し立てる必要があります。※法務局において保管されていた自筆証書遺言は、検認の必要がありません。
検認は、遺言書が偽造・変造されることを防止する目的で行う手続です。
ただし、検認手続を行わないと5万円以下の過料に処せられるおそれがあります。
遺言書の無効を主張する方法について
遺言書の無効を主張する手続きは、交渉(遺産分割協議)、調停、訴訟の3つです。 遺言書の方式による違いはなく、自筆証書、公正証書、秘密証書のいずれであっても同様です。
遺言を無効にしたい場合、相続人全員の合意を得て、遺言の内容に縛られること無く、遺産分割協議(交渉)ができる場合もあります。 しかし、交渉(話合い)によって合意が得られなければ、調停や訴訟という法的手続に移行することになります。
遺言無効確認調停について
家事調停は、調停委員会が当事者の間に入り、家庭裁判所で話し合いによる解決を目指す手続きです。
合意ができれば、合意した内容を調書に記載して調停が成立します。 合意ができないときには、調停は不調となり、調停手続は終了します。 通常相続は、調停を行ってからでなければ訴訟はできないとされています。しかし、調停はあくまで話し合いによる解決であるため、調停での解決は難しいと予想される事件については調停を省略し、最初から訴訟を行うケースもあります。
遺言無効確認訴訟について
訴訟では、遺言の無効を主張する相続人が原告となり、それ以外の相続人や受遺者が被告となります。原告と被告がお互いに主張や立証を重ねていき、これらが出揃った段階で、裁判官による判断がなされることになります。
遺言は無効であると判断されると、改めて遺産分割協議を行う必要があります。遺産分割協議は、話合いなので特別な手続は必要ありませんが、相続人全員で行う必要があります。しかし、遺言無効確認訴訟で争った後に遺産分割協議を成立させるのは難しい場合が多いため、遺産分割調停の申立も検討していく必要があるでしょう。そういった場合には、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
遺言無効に関する解決事例
弁護士法人シーライトには、遺言無効を主張された事案でこれを弁護した解決事例があります。
遺言の無効を主張されたがポイントをついた交渉により4ヶ月とかからず早期解決できた事案
遺言無効確認訴訟の時効はあるの?
遺言無効確認訴訟には時効がありません。しかし、かなり昔の遺言書について争う時には、証拠となる資料を集めることが難しくなります。そのため、遺言書の無効を主張したい場合には、早めに行った方がいいでしょう。
遺言が有効となった場合に備えて遺留分侵害額請求の意思表示をしておこう
遺言無効確認訴訟を提起する際には、遺言が有効と判断される場合に備えて、遺留分侵害額請求訴訟を同時に提起することもあります。
遺留分侵害額請求とは、被相続人が特定の相続人に「遺産のほとんどを譲る」といった内容の遺言を残していた場合など、特定の相続人だけに有利な内容の遺産分配がなされた時、一定の範囲の法定相続人が自己の最低限の遺産の取り分を確保することのできる制度です。 この遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ってから1年または、相続開始の時から10年を経過すると時効により消滅するので注意が必要です。
もし、遺言によって遺留分が侵害されている場合は、遺留分侵害額請求権の時効を止めるため、遺言の無効を主張しつつも、予備的に遺言の有効性を認めたうえで遺留分侵害額請求の意思表示をしておくことが大切です。 こうしておくことで、訴訟で遺言が有効と認められた場合でも、その後に遺留分に相当する金銭の支払いを請求することが可能となります。
遺留分侵害額請求の具体的な方法については、こちらをご覧下さい
遺言書の無効に関してご不明点等あれば弁護士にご相談ください
遺言書の作成には法的な拘束力が発生するため、書き方に厳格なルールが定められています。
うっかり間違えてしまった場合や、正式な書き方を知らなかった場合には、その遺言書は無効となってしまいます。また、遺言書に不正があるとわかった場合や遺言書の内容が不当であると疑問をもたれた場合には、一度弁護士にご相談ください。弁護士法人シーライトでは、相続に詳しい弁護士がお話を伺った上で、遺言無効を主張したほうがいいのかなどアドバイスさせていただきます。お気軽にご相談ください。
相続に関して当事務所にご相談されたい方は、お電話もしくは、お問い合わせページよりご連絡ください。
代表弁護士 阿部 貴之
神奈川県弁護士会所属。弁護士登録後、都内総合法律事務所、東京都庁労働局等を経て、平成27年に弁護士法人シーライトを開設。以来相続トラブルの相談実績は400件を超える。「依頼者の良き伴走者となるために」をモットーに、スタッフと共に事件解決へ向かって邁進中。好きな言葉は「二人三脚」「誠心誠意」。弁護士紹介