家族が亡くなった後に発生する遺産分割。当事者同士の話し合いがまとまらない場合や、感情的にこじれてしまった場合の解決策として、家庭裁判所を利用する「遺産分割調停」があります。
遺産分割調停は、感情ではなく「ステップ」で進む解決の仕組み
遺産分割調停では、当事者それぞれの事情や希望を確認しながら話し合いを進めます。ただし、親族間の感情的な対立や、これまでの家族関係に関する不満を解消すること自体が、調停の目的ではありません。
調停では、相続人の範囲、遺産の範囲、遺産の評価、各相続人の取得額、具体的な分割方法といった事項を、一定の順序に沿って整理していきます。そのため、遺産分割調停を進めるには、自分の気持ちを伝えるだけでなく、現在どの段階が問題となっているのかを把握し、その問題に関する主張と資料を準備することが重要です。
本記事では、このような遺産分割調停の仕組みや流れ、費用、期間の目安とともに、調停を進める際の実践的なポイントを解説します。
遺産分割の3つの方法(協議・調停・審判)の違い
遺産分割の方法には、大きく分けて「遺産分割協議」「遺産分割調停」「遺産分割審判」があります。
- 遺産分割協議
遺産分割協議は、相続人全員による話し合いです。相続人全員が合意すれば、法定相続分と異なる割合や方法で遺産を分けることもできます。合意が成立した場合には、通常、その内容を遺産分割協議書にまとめます。 - 遺産分割調停
遺産分割調停は、家庭裁判所において、調停委員会の仲介により話し合う手続です。調停委員会が一方的に遺産の分け方を決定する手続ではないため、調停を成立させるには、当事者全員の合意が必要です。 - 遺産分割審判
遺産分割調停で合意に至らず、調停が不成立となった場合には、原則として遺産分割審判の手続へ移行します。審判では、裁判官が、当事者から提出された主張や資料、遺産の種類や性質、その他の事情をふまえて、遺産の分割方法を判断します。
遺産分割調停を検討すべきケース
当事者間の話し合いだけでは解決が難しい場合には、遺産分割調停を申し立てることが選択肢となります。特に、次のようなケースでは、家庭裁判所を利用して争点や資料を整理することが有効な場合があります。
- 相続人間で感情的な対立が強く、話し合いが進まない
相続人同士が直接話すと口論になってしまう場合や、冷静な話し合いが難しい場合です。調停では、申立人と相手方が別々の待合室で待機し、交互に調停室へ入る方法が一般的です。そのため、当事者同士が直接顔を合わせずに手続を進められる場合があります。 - 一部の相続人が話し合いに応じない
連絡をしても返事がない、または遺産分割の話題そのものを避けられている場合です。調停を申し立てると、家庭裁判所から相手方へ期日の通知が送られます。ただし、調停は相手方の出席や合意を強制する手続ではありません。相手方が出席しない場合や、合意の見込みがない場合には、調停が不成立となり、審判へ移行することがあります。 - 遺産の範囲や評価額について意見が異なる
不動産、預貯金、株式などのうち、何が遺産分割の対象となるのかについて争いがある場合や、不動産などの評価額について意見が一致しない場合です。調停では、登記事項証明書、預貯金の残高証明書、不動産会社の査定書などの資料を提出し、遺産の範囲や評価額について整理していきます。当事者間で不動産の評価額について合意できない場合には、鑑定が行われることもあります。 - 特別受益や寄与分について主張がある
一部の相続人が被相続人から生前贈与を受けていた場合や、被相続人の財産の維持または増加について特別な貢献をした相続人がいる場合には、特別受益や寄与分が問題となることがあります。単に「自分だけが介護をして大変だった」「ほかの相続人だけが援助を受けていた」と述べるだけでなく、いつ、どのような介護や援助があり、それが被相続人の財産にどのような影響を与えたのかを、資料に基づいて整理することが重要です。
遺産分割調停を利用するメリット・デメリット
メリット:第三者を介して話し合える
調停では、調停委員会が当事者それぞれから事情や希望を聴き、話し合いを仲介します。原則として、当事者同士が直接やり取りすることなく話し合いを進められるため、感情的な衝突を避けながら、遺産の範囲、評価額、分割方法などの問題を整理しやすくなります。
また、調停が成立した場合には、合意内容を記載した調停調書が作成されます。調停調書の内容によっては、相手方が義務を履行しない場合に強制執行を申し立てることができます。
デメリット:一定の時間と費用がかかる
遺産分割調停は、1回の期日で解決するとは限りません。期日と期日の間が1か月から2か月程度空くこともあり、争点が多い場合や、不動産の評価、特別受益、寄与分などが問題となる場合には、解決までに長期間を要することがあります。
また、戸籍謄本、登記事項証明書、残高証明書などの取得費用が必要となるほか、弁護士へ依頼する場合には弁護士費用も発生します。
遺産分割調停の全体の流れ
遺産分割調停は、おおむね次のように進みます。
- 家庭裁判所への申立て
申立書や戸籍謄本、遺産に関する資料などを準備し、管轄の家庭裁判所へ提出します。申立てをする場合には、ほかの相続人全員を相手方とするのが原則です。 - 調停期日の決定と通知
家庭裁判所が申立書を受理すると、第1回調停期日が指定され、申立人と相手方へ通知されます。 - 第1回調停期日
第1回期日では、当事者の主張や希望、遺産の内容、対立している事項などが確認されます。必要な資料が不足している場合には、次回期日までに戸籍、残高証明書、不動産の評価資料などを提出するよう求められることがあります。 - 継続期日
その後の期日では、相続人の範囲、遺産の範囲、評価額、各相続人の取得額、分割方法などを順に整理していきます。事案によって進み方は異なりますが、遺産分割調停では、複数の問題を無秩序に話し合うのではなく、前提となる事項から段階的に整理する運用が一般的です。 - 調停成立または不成立
当事者全員が分割内容に合意すれば、調停が成立し、家庭裁判所が調停調書を作成します。合意に至らなければ、調停は不成立となり、原則として遺産分割審判へ移行します。
【重要】遺産分割調停で用いられる段階的な進行
遺産分割調停では、多くの場合、次のような順序を意識しながら争点を整理します。この進め方は、一般に「段階的進行モデル」と呼ばれることがあります。
ただし、すべての家庭裁判所や事件で全く同じ順序に固定されているわけではありません。具体的な進行は、事案の内容や当事者の主張などによって異なります。
まず、誰が遺産分割の当事者になるのかを確定します。遺産分割の当事者全員が手続に関与しなければ、原則として有効な遺産分割を行うことはできません。
次に、遺産分割の対象となる財産を確定します。不動産、預貯金、株式などについて、被相続人の財産であるか、現在も遺産として存在しているかなどを整理します。
なお、被相続人の生前または死亡後に引き出された預貯金については、当然に遺産分割の対象となるとは限りません。引出しの時期や経緯、共同相続人の同意の有無などにより、遺産分割の対象として扱われる場合と、引き出した者に対する返還請求などの別の問題として扱われる場合があるため、個別の検討が必要です。
また、相続開始後の賃料収入や遺産管理費用など、遺産に付随する法律関係については、当然に遺産分割の対象となるとは限りませんが、当事者間で遺産分割の対象に含めて解決するかどうかを話し合う場合があります。
遺産分割の対象となる財産が決まったら、その評価額を確定します。
預貯金は比較的評価しやすいものの、不動産、非上場株式、骨董品などは評価方法について争いが生じることがあります。不動産については、固定資産税評価額、相続税評価額、不動産会社の査定額などを参考に協議し、合意できない場合には鑑定が検討されることもあります。
法定相続分または遺言で指定された相続分を前提として、特別受益や寄与分の有無を検討し、各相続人の具体的な取得額を整理します。
特別受益や寄与分が認められるかどうかは、単に不公平感があるかどうかではなく、法律上の要件と具体的な資料に基づいて判断されます。
最後に、各財産を誰がどのように取得するかを決めます。
主な分割方法には、次のようなものがあります。
- 現物分割:遺産をそのまま分ける方法
- 代償分割:一部の相続人が財産を取得し、ほかの相続人へ代償金を支払う方法
- 換価分割:財産を売却し、売却代金を分ける方法
- 共有分割:相続人が財産を共有する方法
どの方法が適切かは、遺産の内容、相続人の希望、代償金の支払能力などによって異なります。
遺産分割調停の申立先と必要書類
- 申立先:原則として、相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所。ただし、当事者が合意した場合には、合意によって定めた家庭裁判所へ申し立てることもできます。
- 主な必要書類:標準的なケースでは、次のような書類が必要です。
- 遺産分割調停申立書
- 当事者目録
- 遺産目録
- 事情説明書
- 進行に関する照会回答書
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本及び改製原戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票または戸籍の附票
- 財産を証明する資料(登記事項証明書、残高証明書等)
相続人の構成や遺産の内容によって、必要な戸籍や資料は異なります。申立先の家庭裁判所から、追加資料の提出を求められる場合もあります。
また、一定の場合には、戸籍謄本等に代えて法定相続情報一覧図の写しを提出できることがあります。詳しくは申立先の家庭裁判所へ確認する必要があります。
遺産分割調停にかかる費用と期間の目安
- 期間
遺産分割調停が終了するまでの期間は、事案によって大きく異なります。相続人や遺産が少なく、争点が限定されている場合には比較的早く終了することがあります。一方、不動産の評価、遺産の範囲、特別受益、寄与分などについて争いがある場合には、1年を超えることもあります。 - 裁判所費用
申立てには、被相続人一人につき1,200円分の収入印紙が必要です。このほか、連絡用の郵便料が必要となります。郵便料の金額や納付方法は家庭裁判所によって異なるため、申立先の裁判所へ確認してください。 - 弁護士費用
弁護士へ依頼する場合には、法律事務所の料金体系に応じて、着手金、報酬金、事務手数料、実費、日当などが発生することがあります。なお、日本弁護士連合会の弁護士白書によれば、遺産分割調停事件では、近年、約8割の事件で代理人弁護士が関与しています。
遺産分割調停を進める際のポイント
感情と法的な主張を分けて整理する
相続では、それまでの家族関係や介護の負担、生前の扱いの差などから、強い不満が生じることがあります。そのような事情を調停委員に説明すること自体が無意味なわけではありません。しかし、遺産分割の結論に反映させるためには、その事情が特別受益、寄与分、遺産の帰属などの法律上の問題とどのように関係するかを整理する必要があります。
相手方に対する非難だけに終始するのではなく、どのような事実について、どのような判断を求めるのかを明確にすることが重要です。
客観的な資料を準備する
自分の主張を裏付ける資料を準備しましょう。
例えば、次のような資料が考えられます。
- 戸籍謄本
- 預貯金通帳や取引履歴
- 残高証明書
- 不動産の登記事項証明書
- 不動産会社の査定書
- 贈与契約書
- 振込記録
- 介護記録
- 領収書
- 被相続人やほかの相続人との手紙、メールその他の記録
どの資料が必要となるかは、主張する内容によって異なります。
調停委員に分かりやすく説明する
調停委員は中立的な立場で、当事者双方から事情を聴き、合意形成を支援します。
そのため、相手方を感情的に非難するよりも、時系列、金額、資料との対応関係を整理し、何についてどのような解決を希望しているのかを分かりやすく説明することが大切です。
調停が不成立になった場合
遺産分割調停で当事者全員の合意に至らなかった場合には、原則として遺産分割審判へ移行します。
審判では、裁判官が、当事者の主張や提出資料、遺産の種類や性質、各相続人の事情などをふまえて、遺産の分割方法を判断します。
審判が確定すると、その内容に従って遺産を分けることになります。また、金銭の支払などを命じる内容について相手方が履行しない場合には、強制執行を検討できることがあります。
遺産分割調停を弁護士に依頼するメリット
争点と必要な資料を整理できる
遺産分割調停では、相続人の範囲、遺産の範囲、評価額、特別受益、寄与分、分割方法など、複数の問題を整理する必要があります。
弁護士に依頼することで、自分の希望を法的な主張として整理し、その主張に必要な資料を検討できます。
書面の作成や期日への対応を任せられる
弁護士は、申立書や主張書面の作成、資料の整理、調停期日への出席などを依頼者に代わって行うことができます。
そのため、弁護士に依頼することで、手続上の負担や、相手方と紛争を続けることによる精神的な負担を軽減できる場合があります。
合意内容を法的な観点から確認できる
調停で提示された解決案が、自分の法的な権利や将来の手続にどのような影響を与えるかを判断するのは、容易ではありません。
弁護士に依頼することで、合意内容の意味やリスクを確認した上で、調停を成立させるかどうかを検討できます。
まとめ
遺産分割調停は、親族間の感情的な問題をすべて解消するための手続ではなく、遺産の範囲や評価、各相続人の取得額、具体的な分割方法を整理し、合意による解決を目指す手続です。
調停では、複数の問題を一度に議論するのではなく、前提となる事項から段階的に整理していくことが一般的です。
そのため、現在どの事項が問題となっているのか、何を主張したいのか、その主張を裏付ける資料があるかを整理して臨むことが重要です。
遺産の範囲や特別受益、寄与分、不動産の評価などに争いがある場合や、相続人同士で直接話し合うことが難しい場合には、早めに弁護士へ相談することをご検討ください。


