生前贈与で受け取ったお金も遺留分の対象になるのか知りたい
生前贈与が行われると遺留分を侵害する可能性があります。ただし、全ての生前贈与が遺留分の侵害の対象となるわけではありません。詳しく解説していきましょう。
目次
遺留分とは
遺留分というのは、一定の相続人が相続できる最低限の遺産の取り分のことです。 一定の相続人とは、被相続人の配偶者・直系卑属(子どもまたは孫など)・直系卑属がいない場合は、直系尊属(父母または祖父母など)を指しています。 ちなみに被相続人の兄弟姉妹、甥や姪には遺留分は認められていません。
生前贈与とは
生前贈与とは、被相続人の生前に被相続人と相続人が贈与契約することにより、財産の贈与をすることです。 例えば、父親と長男の間で「父親は、長男に対して〇〇不動産を贈与する」という契約を締結します。父親が生きている間に、〇〇不動産の権利を長男に移すことが生前贈与となります。
生前贈与で受け取ったお金は遺留分とどのような関係があるのか
生前贈与が行われると遺留分を侵害する可能性があります。ただし、全ての生前贈与が遺留分の侵害の対象となるわけではありません。以下のような生前贈与があると、遺留分侵害額請求の対象になります。
- ①相続開始前1年間の相続人以外への生前贈与
- ②相続開始前10年以内の法定相続人への特別受益にあたる生前贈与
- ③他の相続人の遺留分を侵害していると知って行われた生前贈与
①相続開始前1年間に行われた相続人以外への生前贈与について
被相続人が亡くなる前の1年間に行われた相続人以外への生前贈与は、相続財産として判断されます。
相続人以外とは、相続人ではない親族(従兄弟や孫など)や慈善団体などの組織、まったくの他人(たとえば、長年介護をしてくれた人)などをさします。
ただし、孫については、状況次第での①の条件に該当するのか②に該当するのかが変わってきます。孫が法定相続人ではない場合には、相続開始前1年以内の生前贈与であれば、遺産として考えられます。
もし、孫が代襲相続する相続人である場合には、②の内容が適用されることになりますので、状況に応じて判断が必要となります。
代襲相続人とは
欠格や相続廃除によって相続権を失った場合に、その人の子が代わりに被相続人の相続をすることを言います。 たとえば、祖父が亡くなった時、父(祖父の子)が祖父より先に死亡している場合に、孫(父の子)が祖父の遺産を相続することができます。孫は、父の代襲相続人にあたります。
②相続開始前10年以内に行われた法定相続人への特別受益にあたる生前贈与について
特別受益にあたる生前贈与が法定相続人に対して行われた場合、被相続人が亡くなる前10年間については、遺留分の対象となります。 ただし、生前贈与は、そのすべてが特別受益に該当するわけではありません。 特別受益の対象となるのは、「遺贈」、「婚姻若しくは養子縁組のための贈与」や「生計の資本としての贈与」です。
婚姻、養子縁組のための贈与 | 持参金、支度金や嫁入り道具など。 挙式費用は通常、特別受益にはふくまれません。 |
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生計の資本のための贈与 | 扶養義務履行の範囲を超えた生活費、不動産・車などの購入資金、独立開業に際しての運転資金、住宅購入資金、大学の学費 (※ただし、医学部など高額な場合でないと特別受益とはされないことが多い)など。 |
しかし、生前贈与が特別受益に該当するかは、贈与額、贈与の動機、時期等の様々な事情から判断されることになります。 そのため、何が特別受益にあたり、そうでないのかは、相続の事案ごとに柔軟に解釈する必要がでてきます。特別受益・生前贈与に関するケースはぜひ弁護士へご相談ください。
弁護士法人シーライトは税理士とも連携し、法律的視点だけでなく、税金の観点からも特別受益・生前贈与について様々な角度から相談できますので、お気軽にご相談ください。
特別受益の持戻しについて
相続人の中に特別受益者がいる場合、他の相続人との公平を図るため、相続の際に遺産に特別受益を加えて「みなし相続財産」として、各相続人の相続分を計算します。これを特別受益の持戻しといいます。
つまり、現在の相続財産に特別受益者が生前にもらった金額を加え、それを正式な相続財産として各相続人の相続分を計算することになります。
注意すべきなのは、特別受益の持戻しは、相続人間の公平を図る制度ではりますが、それは「被相続人の意思に反しない限りにおいて」という限定がつきます。そのため、被相続人が特定の相続人を特別扱いするためにおこなわれた特別受益については、持戻しは行いません。これを、持戻しの免除といいます。
例えば、遺言や贈与契約書に、特別受益に当たる遺贈や贈与の持戻しを免除する旨が明記されている場合、遺産分割の際、遺贈や贈与された財産は、相続財産に加算しません。今ある相続財産だけで各法定相続人の相続分を計算します。
ただし、持戻さないのは遺産分割時のみとなります。遺留分を計算する際には、持戻し免除が適用されず、持戻し免除された特別受益も計算に含めることになります。
③他の相続人の遺留分を侵害していると知って行われた生前贈与について
遺留分権利者の遺留分を侵害することを知って行われた生前贈与は、期間は設けられていません。つまり、全てが遺留分の計算の対象となります。他の相続人の遺留分を侵害していると知っていたとは、その事実関係を知っていれば良いとされています。
そのため、その侵害している相続人が誰であるのかを特定する必要はありませんが、遺留分権利者の遺留分を侵害していることを知っていたということを証明するのは、難しい場合もあります。知っていたかどうかについて当事者間でもめてしまいそうな場合、もしくは、すでにもめてしまっている場合には、一度弁護士にご相談ください。弁護士が仲介に入り、冷静な話合いの場を設けて円滑な交渉を行います。
相続放棄と生前贈与の関係について
被相続人の生前に生前贈与が、ある相続人に行われ、相続が開始された後にその相続人が相続放棄を行った場合、どのような位置づけで考えられるのでしょうか。 相続放棄とは、相続に関して一切の相続を放棄することになり、相続人とならなかったとみなされます。 相続放棄をした相続人に対して行われた生前贈与は、相続人に対する贈与ではなく、他人への贈与とみなされます。
遺留分の計算方法について
では、生前贈与を含めた遺留分は、どのように算出されるのでしょうか。
まず遺留分の計算は、【 遺留分の基礎となる財産合計 × 個別の遺留分割合 】によって算出されます。
遺留分の基礎となる財産合計は、相続開始時点で被相続人が有したプラスの財産の価額に、被相続人が相続開始前にした贈与(上記での説明した①~③を含む)した財産の金額を加え、被相続人のマイナスの財産を差し引くことによって算出します。
贈与とは、上記で説明した生前贈与(①~③)を含めた以下となります。
- ①生前贈与(相続開始前1年以内)
- ②法定相続人に対する特別受益にあたる生前贈与(10年以内)
※特別受益とは、法定相続人が被相続人の生前に受けた贈与や遺言による贈与などによって得られた利益のことです。
※2019年6月30日以前に発生した相続の「遺留分減殺請求」では、相続人に対する「特別受益」にあたる生前贈与の期間に定めがありません。そのため、10年より前に行われたものも含みます。 - ③他の相続人の遺留分を侵害すると知って行われた贈与(期間制限はありません)
- ④遺留分権利者に損害を与えることを知って行われた不相当な対価による有償行為(期間制限はありません)
例えば、8,000万円の価値がある土地を、遺留分権利者に損害を与えることを知っていたにも関わらず、特定の相続人に3,000万円で売買したような行為が該当します。この場合、8,000万円から3,000万円を引いた差額の5,000万円が贈与にあたります。この5,000万円を遺留分に加算することになります。
生前贈与を含めた遺留分の計算例
- 現在の相続財産:土地(評価額4,000万円)、現金(2,000万円)
- 生前贈与:相続前1年以内に相続人ではない親族に行われた贈与300万円
- 債務:なし
- 上記のような条件の場合、遺留分はこのように計算されます。
遺留分の基礎となる財産額=【4,000万円+2,000万円】+【300万円】=6,300万円
遺留分の割合について
遺留分の算出ができたら、ご自身がいくらその遺留分からもらえるのか遺留分割合を求めます。 遺留分の基礎となる財産額に遺留分割合をかけ算すれば、自身の遺留分が算出されます。 遺留分の割合は、下記表を確認ください。
遺留分 | ||
---|---|---|
配偶者のみ | 相続財産の1/2 | |
配偶者+子 | 配偶者 | 相続財産の1/2×1/2 |
子 | 相続財産の1/2×1/2÷人数 | |
子のみ | 相続財産の1/2÷人数 | |
配偶者+直系尊属 | 配偶者 | 相続財産の1/2×2/3 |
直系尊属 | 相続財産の1/2×1/3÷人数 | |
直系尊属のみ | 相続財産の1/3÷人数 | |
配偶者+兄弟姉妹 | 配偶者 | 相続財産の1/2 |
兄弟姉妹 | なし | |
兄弟姉妹のみ | なし |
生前贈与があった場合の遺留分計算例
相続開始時の遺産総額が7,000万円、相続前10年以内に行われた特定の相続人への特別受益に当たる生前贈与が2,000万円あった場合を例に考えていきます。 また、相続人は、被相続人の子ども3人とします。
- 遺留分の基礎となる財産額は7,000万円+2,000万円=9,000万円
- 子ども1人当たりの遺留分は、9,000万円×6分の1(相続財産の1/2÷3)=1,500万円となります。
実際の遺留分額の算定は、計算方法が複雑に絡み合い、難解な場合が多々あります。具体的な金額についてお知りになりたい場合は、弁護士法人シーライトに一度ご相談ください。また、遺留分を計算して侵害されていると分かったら「遺留分侵害額請求」を検討しましょう。
遺留分が侵害されている場合には、「遺留分侵害額請求」を検討しよう
遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された相続人が、贈与または遺贈を受けた者に対して、その財産の取り戻しを請求することをいいます。遺留分侵害額請求は、権利があるだけですので、絶対に遺留分侵害額請求をしなければならないわけではありません。請求をするかしないかは、本人の意思にゆだねられます。なお、法改正(2019年7月1日施行)により、遺留分減殺請求は、「遺留分侵害額請求」と呼ばれるようになりました。相続開始が令和元年7月1日より前である場合には、遺留分減殺請求をすることになります。
遺留分侵害額請求を考えられている方は、請求ができる期間に限りがある点に注意が必要です。遺留分権利者が、①相続の開始と、②遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から、1年以内に遺留分侵害額請求権を行使しなければ、それ以後の遺留分侵害額請求はできません。つまり、1年間が、遺留分侵害額請求ができる期限とされています。さらに、遺留分権利者が相続開始を知ってから1年間に当てはまるとしても、相続開始の時から10年が経っている場合には、時効によって消滅します。遺留分侵害額請求を検討されている方は、早めのご対応をおすすめします。
生前贈与も含めた遺留分問題についてご不明点があれば弁護士にご相談ください
遺留分侵害額請求を行う場合には、生前贈与も計算対象に含めることが可能となります。しかし、「生前贈与が実際にあったのか」「どの時期にいくらの生前贈与があったのか」を正確に明らかにするのは大変な作業です。複雑な場合には、計算方法が分からないということもあります。
生前贈与を含めた遺留分問題をスムーズに処理してゆきたい場合には、弁護士に一度ご相談ください。
弁護士法人シーライトでは、生前贈与も含めた遺留分問題についてのご相談を受け付けております。お電話もしくは、お問い合わせページよりご連絡ください。
代表弁護士 阿部 貴之
神奈川県弁護士会所属。弁護士登録後、都内総合法律事務所、東京都庁労働局等を経て、平成27年に弁護士法人シーライトを開設。依頼相続トラブルの相談実績は400件を超える。「依頼者の良き伴走者となるために」をモットーに、スタッフと共に事件解決へ向かって邁進中。好きな言葉は「二人三脚」「誠心誠意」。弁護士紹介