遺贈や寄付も遺留分の対象になるのか

被相続人の遺言で「お世話になったA氏へ500万円遺贈する」や「支援していた〇〇慈善団体へ相続財産の半分を寄付する」となっていた場合、その遺言により遺留分を侵害されている相続人は、遺留分を請求できるのか疑問に思われる方もいらっしゃると思います。
では、遺言により遺留分を侵害する額の遺贈や寄付が行われる場合、遺留分を侵害されている相続人は、遺留分を請求できるのか解説したいと思います。

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遺贈と寄付について

遺贈とは、被相続人が遺言によって無償で、他人に財産の全部もしくは一部を譲ることです。遺贈を受け取る相手(受遺者と呼びます)は、生前に関わりのあった特定の個人(相続人でも相続人以外でも可)だけではなく、病院や教育機関、地方自治体などの団体や法人でもよいです。

また遺贈は、被相続人の意思だけで行うことができる無償の単独行為であり、受遺者の同意は不要となります。ちなみに、受遺者が遺言の効力を発生する前に死亡してしまった場合には、遺贈は無効となります。
寄付とは、社会貢献活動に役立てることを目的とし、財産のすべてもしくは一部を特定の団体や個人に無償で譲ることをいいます。

遺贈・寄付と遺留分の関係

遺留分を侵害するような遺贈・寄付がなされた場合には、遺留分権利者は遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分は、遺留分権利者に対して最低限保障される遺産の取り分になります。そのため、遺言よりも優先されるものになります。

遺贈と遺留分侵害額について

遺言書に相続人や第三者対して遺贈する旨が書かれていた場合、遺留分を侵害された人はどのように侵害額を算出するのかを説明します。
計算して、遺留分が侵害されていない場合には、遺留分は請求できません。以下では遺留分を請求できるケースとできないケースをご紹介します。

共同相続人への遺贈に対する遺留分侵害額の計算例

受遺者が相続人であるとき、遺贈の価額から自らの遺留分の額を差し引いた額を限度として、遺留分侵害額について責任を負います。

【例】
父親Aが亡くなり(被相続人)、相続人は、妻Xと子ども(B、C、D)が3人という状況で、被相続人は、以下のような遺言を残しました。
「妻Xには、4000万円、子どもBには、5000万円、子どもCには3000万円を相続させ、残りの遺産を子どもDに相続させる」
子どもDが受け取った額は300万円でした。

このような場合、子どもDの遺留分侵害額はいくらになるのか考えたいと思います。

1.妻Xと子どもBとCに遺贈された総額を算出します

4000万円+5000万円+3000万円=1億2000万円
ここに子どもDが相続された300万円を加算すると遺留分算定の基礎財産が出ます。
1億2000万円+300万円=1億2300万円

2.妻と子どもの個別の遺留分を算出します

妻X1億2300万円×1/2(法定相続分率)×1/2(遺留分率)=3075万円
各子ども1億2300万円×1/2(法定相続分率)×1/6(遺留分率)=1025万円

3 .子どもDの遺留分侵害額を算出します

1025万円-400万円=625万円

4.妻Xと子どもBとCは、子どもDに対してそれぞれいくら支払う必要があるのか考えます

受遺者である妻Xと、子どもBとCの遺贈の額から、自らの遺留分を差し引いた額を限度として遺留分侵害額に対して責任を負うことになります。 計算式は以下となります。

妻Xの侵害額4000万円-3075万円=925万円
子どもBの侵害額5000万円-1025万円=3975万円
子どもCの侵害額3000万円-1025万円=1975万円

5.複数の遺贈がある場合(この場合は、妻Xと子どもBとC)には、遺留分を超過する価額の割合に応じて侵害額を負担することになります

計算は以下のようになります。

妻Xの侵害額625万円×925万円/(925万円+3975万円+1975万円)=84万909円
子どもBの侵害額625万円×3975万円/(925万円+3975万円+1975万円)=361万3636円
子どもCの侵害額3625万円×1975万円/(925万円+3975万円+1975万円)=179万5454円

結論:妻Xと子どもBとCは、計算で算出された侵害額を子どもDに請求された場合、支払うこととなります。

第三者への遺贈に対しての遺留分侵害額請求が不可能な計算例

被相続人Aの相続人は子どもBとCでした。
被相続人Aの遺産は、4000万円、債務は400万円だったとします。
被相続人Aは「知人であるD氏に全財産の半分を包括遺贈する」旨の遺言を残していました。その場合、子どもBとCの遺留分侵害額はいくらになるのかを考えます。

1.遺留分算定の基礎となる財産の金額を算出します

プラスの財産4000万円-マイナスの財産(負債)400万円=3600万円

2.知人D氏が遺贈される額を算出します

包括遺贈とは、遺贈の一種で、遺産の全部または、一定割合で示された部分の遺産を遺贈することです。
包括遺贈では、プラスの財産とともにマイナスの財産(債務)も承継することになります。 そのため、D氏は、負債である400万円の半分も継承することとなります。よって計算式は以下となります。

4000万円/2(プラスの財産の半分)-400万円/2(マイナスの財産の半分)=1800万円

3.子どもBとCの各遺留分額の算出をします

子どもB(4000万円-400万円)×1/2(法定相続分率)×1/2(遺留分率)=900万円
子どもC(4000万円-400万円)×1/2(法定相続分率)×1/2(遺留分率)=900万円

4.遺留分侵害額を算出します

① 子どもBとCが相続によって受け取る額1人あたり 2000万円(知人D氏への遺贈後のプラスの財産)×1/2(法定相続分率)=1000万円
② 子どもBとCの債務の負担額1人あたり 200万円(知人D氏への遺贈後のマイナスの財産)×1/2=100万円
③ 子どもBとCの遺留分侵害額1人あたり 900万円-1000万円+100万円=0

結論:子どもBとCは、遺留分がないため、遺留分侵害額請求はできません。

遺贈や寄付に対して遺留分を請求できるかの確認手順

遺留分を侵害するような内容の遺言があった場合には、相続人であっても第三者や団体であっても、不足する遺留分を請求して取り戻すことが可能です。 まずはご自身が遺留分を請求できるのかを確認しましょう。

手順1:ご自身が遺留分を請求できる権利があるのかを確認

被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に遺留分は認められています。 配偶者、直系卑属の子どもまたは孫、直系尊属である親または祖父母などに遺留分があります。ただし、相続欠格、廃除、相続放棄をした場合には、遺留分を請求することはできません。

手順2:遺留分権利者であれば、その割合について確認

遺留分額は、【遺留分算定の基礎財産】×【個別の遺留分割合】で算出します。 ご自身が遺留分権利者の場合、その割合を確認し、額を算出します。 遺留分算定の基礎財産を算出する際には、遺贈以外にも生前贈与が含まれている可能性もあるので、生前贈与の有無を確認し、計算を行います。

手順3:遺留分権利者であれば、その割合について確認

遺言書の内容を確認して、ご自身の遺留分が侵害されているかどうかを確認します。 もし、遺留分に相当する財産もしくはそれ以上の財産を受け取っている場合には、上記で解説した計算例のように遺留分は満たされているため遺留分侵害額請求はできません。

手順4:時効前なら遺留分の請求手続の準備

「相続が開始したこと、遺留分が侵害されていること(侵害されていたこと)を知った時から1年以内」「相続開始から10年以内」であれば、遺留分侵害額請求が可能です。 逆にその期間を過ぎてしまうと請求できる権利が消滅しますので、遺留分侵害額請求を検討されている場合には、早めの手続をおすすめします。

手順5:遺留分侵害額請求の手続

相手方に配達証明付き内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示を行います。 相手方が、請求に応じてくれた場合はそこで解決となりますが、対立が起きてしまった場合には、調停・訴訟となります。

遺贈や寄付に対して遺留分を請求したい場合には弁護士にご相談ください

遺留分が侵害されるような遺贈があった場合には、遺留分侵害額請求ができます。 それは、相続人以外の第三者への遺贈や団体への寄付であっても可能です。 もし遺贈や寄付に対しての遺留分侵害額請求を検討されている場合には、弁護士にご相談ください。

なぜなら、相続問題の中でも遺留分に関する問題は、理解が難しくなっています。すべての相続財産を把握する必要があり、遺留分侵害額の計算も複雑な場合が多いため、請求できる時効が来てしまう前に、早めに遺留分問題に強い弁護士へ相談することをおすすめします。

また、ご自身が遺留分を侵害されていると主張しても「遺言で言われていた財産を受け取ったのだから、請求に応じる必要はない」と話し合いに応じてもらえないこともあります。そのような場合にも、弁護士が介入し法律的な根拠に基づいた主張で相手方と交渉することで、着実な解決を目指すことができます。

弁護士法人シーライトでは、遺留分問題についての相談を受け付けています。 お電話もしくは、お問い合わせページよりご連絡ください。

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