遺留分侵害額請求をしたけれど無視されてしまった

弁護士法人シーライト

監修者 弁護士 塩谷 恭平

遺留分侵害額請求とは、被相続人が「全ての遺産を長女に譲る」といった内容の遺言を残していた場合など、特定の相続人だけに有利な内容の遺産分配がなされたとき、遺留分を侵害された相続人が、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる制度です。

しかし、遺留分侵害額請求をしても、相手方に無視されてしまうケースもあります。そのようなときには、どう対処すればよいのでしょうか。

目次

そもそも遺留分とは?権利が認められる相続人の範囲

遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に対して、法律上最低限保障されている遺産の取得割合のことです。たとえ遺言書で「特定の人物に全ての財産を譲る」と指定されていても、遺留分を侵害された相続人は、その侵害額に相当する金銭を請求することで、最低限保障された利益を確保することが可能です。

誰が遺留分を請求できるのか(権利者の範囲)

遺留分を請求できる権利者は、配偶者、子(およびその代襲相続人である孫など)、直系尊属(父母や祖父母)に限られます。被相続人の兄弟姉妹や、その代襲相続人である甥・姪には遺留分が認められていない点に注意が必要です。

相続人の順位と遺留分の割合(法定相続分の何分の1か)

遺留分として認められる総額(総体的遺留分)は、原則として、遺留分を算定するための基礎となる財産の2分の1です。ただし、相続人が父母などの直系尊属のみの場合は、3分の1となります。個々の相続人が主張できる割合は、この総体的遺留分に各自の法定相続分を掛け合わせて算出します。

遺留分侵害額はどう計算する?金額に影響する要因と計算式

遺留分侵害額を正確に算出するためには、単に現在の遺産の額を分けるだけでなく、過去の贈与や債務などを加味して計算を行う必要があります。

遺留分侵害額を算出する3つのステップ

遺留分侵害額は、主に次のような流れで算出します。

  1. 遺留分を算定するための基礎となる財産額を確定する(相続財産額 + 一定の生前贈与額 ー 債務額)
  2. 各相続人の遺留分額を計算する(基礎となる財産額 × 各人の遺留分割合)
  3. 実際の遺留分侵害額を算出する(遺留分額 ー 実際に遺贈等で得た額 + 負担した債務額)

生前贈与や遺言書の内容が計算結果に与える影響

特定の相続人に対して行われた「特別受益」にあたる生前贈与は、原則として、相続開始前の10年間になされたものが遺留分算定の基礎財産に含まれます。ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与した場合には、10年より前の贈与が問題となることもあります。

また、相続人以外の第三者に対する贈与についても、一定の場合には遺留分算定の基礎財産に含まれることがあります。遺言書による遺贈の対象が不動産である場合などは、その評価額の算定方法が請求額に大きく影響することもあります。

相手が支払いに応じてくれない

今回は、遺留分侵害額請求をしたけれど相手方に無視されてしまった場合の時効や、請求に応じない相手方から遺留分侵害額の支払いを受けるための対応方法について解説します。

なお、遺留分の請求については「遺留分減殺請求」という呼び名でご存知の方もいらっしゃるかと思います。もっとも、2019年7月1日施行の改正民法により制度内容が変更され、現在は、遺留分を侵害された場合には、原則として、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する「遺留分侵害額請求」を行うことになります。

遺留分侵害額請求に応じない場合は時効に注意しましょう

遺留分侵害額請求をしても相手方が無視したとき、遺留分の時効は成立してしまうのでしょうか。

遺留分侵害額請求の消滅時効について

遺留分侵害額請求権は、①相続が開始したこと、及び、②遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年で時効により消滅します。ただし、1年の消滅時効については、遺留分侵害額請求を受ける相手方が消滅時効を主張しなければ、時効期間経過後も請求できる場合があります。もっとも、相手方から「時効が成立している」と主張されるリスクがあるため、期間内に適切な対応を取ることが重要です。

相続開始と遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ってから1年以内に、相手方に対して「遺留分侵害額請求を行います」と意思表示できれば問題ありません。遺留分侵害額請求は、口頭などでも行うことができます。しかし、遺留分侵害額請求をした証拠を残しておかないと、後になって相手方から「時効が成立している」と主張され、争いになる可能性があります。そのため、遺留分侵害額請求をするときには、配達証明付内容証明郵便で遺留分侵害額請求書を送りましょう

配達証明付内容証明郵便には、下記項目を記載します。

  • 請求をする本人と相手方
  • 請求の対象となる遺贈、贈与、遺言の内容
  • 遺留分侵害額を請求する旨
  • 請求の日時

【記載例】 XXXX年XX月XX日 甲野次郎殿 私は、甲野一郎(○年○月○日(相続発生年月日))の相続人ですが、貴殿が被相続人甲野一郎から令和5年8月18日付遺言書により遺贈を受けたことによって私の遺留分が侵害されています。そのため、貴殿に対し、遺留分侵害額の請求を致します。 通知人:神奈川県藤沢市△△〇〇 甲野太郎 被通知人:神奈川県茅ヶ崎市○○×× 甲野次郎

遺留分侵害額請求の除斥期間について

遺留分侵害額請求権は、①相続が開始したこと、②遺留分を侵害するような遺贈や贈与などがあったことを遺留分権利者が知らなくても、相続が開始してから10年が経過すると消滅します。この期限は除斥期間と呼ばれます。基本的には、除斥期間は止めることはできません。

そのため、遺留分侵害額請求の権利があることを、相続が発生してから時間が経って知った場合には、相続開始から10年が経過する前に対応する必要があります。

遺留分侵害額請求を行使してから5年の時効

遺留分侵害額請求を行うと、遺留分侵害額を金銭で支払うように請求する「金銭支払請求権」が発生します。この金銭支払請求権は、遺留分侵害額請求権とは別の権利として、時効にかかる可能性があります。

2020年4月1日施行の改正民法により、消滅時効のルールが変わりました。そのため、2020年4月1日以降に遺留分侵害額請求を行った場合には、原則として、債権者がその権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年で時効にかかります。

一方、2020年3月31日以前に遺留分侵害額請求を行った場合には、改正前民法により、権利を行使することができる時から10年で時効にかかると考えられます。

遺留分侵害額請求の時期金銭債権の消滅時効
2020年4月1日以降に遺留分侵害額請求を行った場合(現法)債権者がその権利を行使することができることを知った時から5年、または債権者がその権利を行使することができる時から10年
2020年3月31日以前に遺留分侵害額請求を行った場合(改正前民法)債権者が権利を行使することができる時から10年

そのため、遺留分侵害額請求を行った後も、相手方が支払いに応じない場合には、次に説明するような対応を検討する必要があります。判決や和解などによって権利が確定したにもかかわらず相手方が支払わない場合には、強制執行を検討することになります。

請求に応じない相手方から遺留分侵害額の支払いを受けるための対応方法

1.保全措置(相手方財産の仮差押え)の手続を検討する

相手方が財産を処分してしまうと、遺留分侵害額請求をしても、将来的な回収が難しくなる場合があります。そのような場合には、保全措置として、相手方財産の仮差押えを検討した方がよい場合もあります。

仮差押えとは、遺留分侵害額請求訴訟を行う前に、相手方の財産を仮に差し押さえる保全手続のことです。仮差押えにより、相手方の不動産や預貯金債権などを仮に差し押さえることができる場合があります。そうすることで、相手方による財産処分を制約し、将来の回収可能性を高められる場合があります。

ただし、仮差押えを行うためには、相手方がどのような財産を保有しているかを把握する必要があります。また、裁判所から担保金の提供を求められることもあります。相続財産や相手方財産の調査には時間と手間がかかることが多いため、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。

2. 遺留分侵害額請求調停の申立て

相手方が遺留分侵害額請求に応じず無視している場合には、家庭裁判所で遺留分侵害額請求調停の申立てを検討することになります。なお、家庭裁判所に調停を申し立てただけでは、相手方に対する遺留分侵害額請求の意思表示をしたことにはなりません。そのため、時効期間との関係では、調停申立てとは別に、内容証明郵便等で遺留分侵害額請求の意思表示をしておくことが重要です。

調停では、家庭裁判所の調停委員会が遺留分請求者と相手方との間に入り、話し合いを仲介します。調停手続では、当事者双方から事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらったりします。そのうえで、相手方に金銭の支払義務があると考えられる場合には、遺留分侵害額請求に応じるよう促したり、法律の定めについて説明したり、解決のために必要な助言をしたりして、話し合いを進めていきます。

申立先については、原則として、遺留分を請求する相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所に申立てます。お互いに直接顔を合わせずに進められることが多いため、冷静に対応でき、自分たちだけで話し合うより合意しやすい場合があります。

遺留分減殺請求による物件返還請求について

ちなみに、令和元年6月30日以前に被相続人が亡くなった場合には、現行法に基づく遺留分侵害額請求ではなく、改正前民法に基づく遺留分減殺請求が問題となります。

令和元年6月30日以前に遺留分を侵害された人は、遺留分侵害の限度で贈与または遺贈された物件の返還等を求める、遺留分減殺による物件返還請求等の調停の申立てを検討することになります。

この場合、不動産などの「物」の返還が問題となることがあります。もっとも、事案によっては価額弁償や金銭による解決が検討されることもあります。調停で合意ができれば調停が成立し、家庭裁判所で調停調書が作成されます。その後、調停で合意した内容に基づいて、相手方から遺留分に関する返還や支払いを受けることになります。

3.遺留分侵害額請求訴訟の提起

調停でも合意できず、不成立になってしまった場合には、遺留分侵害額請求訴訟の提起を検討することになります。つまり、裁判によって解決を図る方法です。

調停のときとは異なり、訴訟は家庭裁判所ではなく、地方裁判所または簡易裁判所で行われます。管轄裁判所については、相続開始時における被相続人の住所地を管轄する裁判所や、相手方の住所地を管轄する裁判所などが問題となるため、事案に応じた確認が必要です。地方裁判所で行われるか簡易裁判所で行われるかは、請求金額によって区別されます。請求金額が140万円を超える場合は地方裁判所、140万円以下の場合は簡易裁判所で裁判を行うことになります。ただし、請求金額が140万円以下の事件であっても、事案が複雑である場合には簡易裁判所から地方裁判所に移送される場合がありますので、確認が必要です。

訴訟においてお互いに和解し、合意できれば訴訟が終了します。もし、合意できなければ判決となり、判決に不服があれば控訴もできます。

遺留分侵害額請求を無視されてしまったら弁護士にご相談ください

遺留分侵害額請求をしたものの、相手方が請求に応じる様子がない場合や、支払いを拒否する場合は、財産を処分され、遺留分侵害額の回収が困難になるおそれがあります。また、遺留分侵害額請求には1年の消滅時効や相続開始から10年の期間制限があるため、対応を先延ばしにすると権利行使が難しくなることもあります。

相手方が請求を無視している場合には、内容証明郵便による請求、調停申立て、訴訟提起、仮差押えなど、事案に応じた対応を早めに検討することが重要です。

弁護士法人シーライトでは、遺留分侵害額請求に関する問題についてのご相談を受け付けております。お電話もしくは、お問い合わせページよりご連絡ください。

遺留分に強い弁護士に相談したい!
と思ったら…

お気軽にご相談ください。

\初回50分間のご相談が無料/

お電話は平日9時~18時|弁護士法人シーライト

まだお問い合わせしない場合は
相続コラムが届く LINE友だち 追加がおすすめ!

目次