相続財産が不動産のみで、他の相続人に不動産は生前贈与または遺言で遺贈され、ご自身の相続はゼロの場合、受け取れる財産は1円もないのでしょうか?
遺留分の請求ができる条件を満たしている相続人であれば、遺言で不動産を遺贈された人に対して、侵害された遺留分の請求をすることができます。これを遺留分侵害額請求と呼びます。このように、遺産の中に不動産があった場合の遺留分について、請求できる相続人の条件とは何か、遺留分の計算はどのようにするのかなどについて解説していきます。
遺言で唯一の相続財産である不動産が別の相続人に相続されても、遺留分は請求可能
遺留分とは、一定条件を満たしている相続人が、最低限受け取れる相続の取り分のことです。 つまり、遺言でご自身の相続分がない場合でも、条件さえ満たしていれば、遺言で財産を取得した別の相続人に対して遺留分を請求できます。では、どのような条件があるのでしょうか。
1.配偶者と子どもは遺留分が認められています。
2.孫が代襲相続人となった場合には、遺留分が認められます。
子どもは、直系卑属に分類されていますが、同じく直系卑属に分類される孫にも、遺留分が認められる場合があります。 孫が遺留分を認められる場合とは、被相続人の子どもが亡くなっており、孫が子どもの代わりに財産を相続することになったときなどです。
3.直系尊属(親または祖父母など)にも遺留分が認められる場合があります。
被相続人に子どもがいない場合、被相続人の親、または親が他界し被相続人の祖父母が健在の場合には、祖父母が相続人となり、遺留分が認められます。
※被相続人の兄弟姉妹・甥姪に遺留分は認められていません。
4.相続放棄や遺留分放棄はしていないこと
相続放棄とは、一切の遺産の相続を放棄することです。 遺留分放棄とは、遺留分を請求できる権利を放棄することになります。
5.相続廃除や相続欠格の該当者ではないこと
遺産の中に不動産がある場合の遺留分の計算方法とは
ご自身が遺留分を請求できる条件を満たしていた場合、実際に遺留分を計算して、最低限受け取れる額がどの程度なのかを計算する必要があります。 請求できる遺留分は、立場によって割合が異なります。 個別の遺留分の割合を表で示したものが下記になります。
法定相続分 | 遺留分 | ||
---|---|---|---|
配偶者のみ | 100% | 相続財産の1/2 | |
配偶者+子 | 配偶者 | 1/2 | 相続財産の1/2×1/2 |
子 | 1/2÷人数 | 相続財産の1/2×1/2÷人数 | |
子のみ | 100%÷人数 | 相続財産の1/2÷人数 | |
配偶者+直系尊属 | 配偶者 | 2/3 | 相続財産の1/2×2/3 |
直系尊属 | 1/3÷人数 | 相続財産の1/2×1/3÷人数 | |
直系尊属のみ | 100%÷人数 | 相続財産の1/3÷人数 | |
配偶者+兄弟姉妹 | 配偶者 | 3/4 | 相続財産の1/2 |
兄弟姉妹 | 1/4÷人数 | なし | |
兄弟姉妹のみ | 100%÷人数 | なし |
遺留分の計算式
① 遺留分の基礎となる財産合計 × ② 個別の遺留分割合
が遺留分の計算式となります。
②個別の遺留分割合は、上記の表を参照すれば割合を算出できます。相続人が配偶者と2人の子どもの場合を例に考えます。
- 配偶者の遺留分割合:相続財産の1/4
- 2人の子どもの遺留分割合:相続財産の1/8
① 遺留分の基礎となる財産合計については、遺産の中に不動産があれば、その不動産の評価額も算出して、財産の合計を出す必要があります。
財産の合計は、相続開始時点で被相続人が有したプラスの財産の価額に、被相続人が相続開始前にした贈与した財産の価額を加算し、被相続人のマイナスの財産(負債)差し引いた額を算出します。
贈与は以下のようなものを指しています。
1.相続人以外への生前贈与(期限は相続開始前1年以内のもの)
2.相続人に対する特別受益にあたる生前贈与(期限は相続開始前10年以内のもの)
※2019年6月30日以前に発生した相続の「遺留分減殺請求」では、相続人に対する「特別受益」にあたる生前贈与の期間に定めがなく、10年より前に行われたものもすべて含みます。
3.相続人と相続人の双方が他の相続人の遺留分を侵害すると知って行われた贈与(無期限)
4.遺留分権利者に損害を与えることを知って行われた有償行為(無期限)
不動産の評価額の算定方法について
不動産が相続財産に含まれている場合には、遺留分の計算をするうえで、不動産の価額を算出する必要が出てきます。不動産の評価方法は、大きく分けて4つ、実勢価格、公示価格、相続税路線価、固定資産税評価額です。
実勢価格 | 市場での取引価格のことです。 |
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公示価格 | 国土交通省(公示地価)や都道府県(基準地価)が毎年発表する標準地に定められた地価のことです。 |
相続税路線価 | 国税庁が定めた路線価図という地図を使って土地の評価額を算定しています。 |
固定資産税評価額 | 都や市区町村が算定した土地や建物の評価額です。 |
「不動産の評価は、いつの時点を基準とするのか」という点ですが、遺産分割を行う際は、遺産分割協議成立時点の時価になります。また、遺留分侵害請求を行う場合には、被相続人の死亡時の時価となります。
不動産の価格を算定する際には、当事者が合意する限り、どの評価方法を選択しても問題ありません。ただし、どの評価方法を選択するかで不動産の価格には差が生じます。そのため、慎重に選択する必要があるでしょう。
遺留分を侵害されているので請求したい場合
遺留分を侵害されている場合は、基礎となる財産の合計金額は、高くなった方が、その分受け取れる遺留分も高くなります。そのため、遺留分を請求したい側からすれば、不動産の評価額も高くなる方法を選ぶ方がよいでしょう。
都心部では、実勢価格が最も高い評価がつくと一般的に言われていますが、地方では、実勢価格よりも他の評価方法の方が高く評価されることもあります。
地理的な要素、土地の立地条件など様々な条件を考慮して、不動産評価が高くなる方法を選ぶ必要があります。
また、実際の実勢価格は、時価なので、売却して初めて分かるものになります。そのため、売却前に評価するというのは難しいのも事実です。そのため、不動産業者などに依頼をして、不動産の査定をしてもらうことで、時価を推測することになります。
評価方法の選択による違い
評価方法が違うとどのくらい遺留分に差が出るのか、例を用いて考えてみたいと思います。
相続人は、子ども2人、長男と長女です。
長男と長女はそれぞれ生前贈与として600万円を受け取っていました。 被相続人は、遺言で「遺産である不動産Aは、長男にすべて相続させる」となっていました。 被相続人には、負債はありません。
相続人である長女は、長男が受け取る財産と比べて自分が受け取れる額が少ないことに不満を抱いたため、遺留分侵害額請求を検討しています。
では、実際に長女は遺留分侵害額請求が可能かどうかを考えてみましょう。
この場合、長女は遺留分侵害額請求が可能か
1.財産の合計金額を算出
プラスの財産 | 長男が相続した不動産A |
---|---|
贈与 | 長男、長女がともに受け取った生前贈与の合計1200万円 |
プラスの財産となっている不動産Aについて、長女が実勢価格で算出した場合は、7600万円だとします。
そうすると、財産の合計は7600万円(不動産Aの実勢価格)+1200万円(贈与合計)-0円(債務)=8800万円
2.長女の遺留分を計算
長女の遺留分の割合は、1/4です。そのため、8800万円に1/4を乗じることで、遺留分が出ます。
8800万円×1/4=2200万円
長女の遺留分は、2200万円となります。
3.遺留分侵害額請求の計算
最後に一体どのくらいの遺留分が侵害されているのかを算出し、その額を長男に請求することになります。2200万円が長女の遺留分ですが、生前に贈与で600万円受け取っているので、その分を差し引きます。 2200万円−600万円=1600万円
長女は、長男に対して1600万円の遺留分侵害額請求をすることができます。
実勢価格より低い評価が出る方法を選んだ場合
ただし、上記は長女が実勢価格で不動産の評価額を算出した場合の話となります。長男は、遺留分侵害額請求をされる側のため、少しでも請求額を抑えたいと考えた場合、不動産の評価額を下げるために実勢価格より低い評価が出る方法を選ぶでしょう。
例えば、長女の遺留分侵害額請求の額に不満を持った長男は、不動産の評価方法を固定資産税評価額で算出したとします。 実勢価格では、7600万円だったものが、固定資産税評価額だと5200万円と評価されました。
その場合、長女が請求できる額はどのようになるかも考えてみたいと思います。
財産の合計は、5200万円(不動産Aの固定資産税評価額)+1200万円(贈与合計)−0円(債務)=6400万円 長女の遺留分は、6400万円×1/4=1600万円
長女の遺留分侵害額請求額は、1600万円−600万円=1000万円となります。
このように不動産の評価方法が異なるだけで、差が生じてしまいます。
遺留分の額で揉めてしまった場合
不動産を含んだ遺留分の計算については、相続人の間で揉めてしまうことがあります。両者の話し合いでは折り合いがつかない場合、調停や訴訟で不動産の評価の争いをすることになります。
遺留分の請求については、弁護士にご相談ください
遺産に不動産が含まれていた場合には、「どの評価方法を選択したらいいのか」「相続人それぞれが、不動産の評価額を算出したけれど、価格がばらばらで妥協点が見つからずに困っている」といった問題が起こりえます。
不動産が絡んだ相続問題については、専門的な知識と経験が必要な場面も多くあるため、弁護士にご相談ください。
弁護士は、ご相談者の代わりに他の相続人の方と交渉を行い、円滑な解決を図ることが可能です。話し合いでは折り合いがつかず、調停や訴訟になってしまった場合にも、弁護士に相談していれば、証拠収集からすべてを任せることができます。
「財産は不動産のみだけれど、遺留分侵害額請求をしたいと思っている」など、遺留分の請求についてお悩みの方は、弁護士法人シーライトにご相談ください。