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遺言を撤回する方法について解説

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早くに遺言書を作成し、相続トラブルにならないようにと準備をしていたけれど、子どもが成長し新しい家族が増えるなど、時間の経過とともにご家庭の状況が変化していくこともあるかと思います。そのような変化が起きたりすることで、作成した遺言の内容を変更したり、撤回したいと考えることも出てくるかもしれません。
今回の記事では、遺言の撤回の方法についてご紹介します。

目次

遺言について

遺言とは、民法が定める方式に従い、遺言者の最終意思を表示したもののことをいいます。民法の定める方式に従って遺言が作成されることにより、遺言者が亡くなった時、遺言の内容通りに相続が行われます。

遺言には、「普通方式」の遺言と「特別方式」の遺言があります。
普通方式の遺言は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類に分かれます。特別方式の遺言は、病気やケガで死が迫っている場合や船舶や飛行機で危機が迫っている場合など、緊急事態が起きている状況下での特別の遺言となります。このような遺言は、頻繁に起きることはありませんので、特別方式の遺言についての説明は省略します。

自筆証書遺言とは、遺言者が全て自筆で作成する遺言書です。平成30年の相続法改正により、財産目録についてはワープロなどによる作成も認められるようになりました。費用をかけず、自宅で手軽に作成することができます。

公正証書遺言とは、2人以上の証人が立ち会いのもと、遺言者が口頭で述べる遺言内容を公証人が聴き取りながら作成する遺言書です。

秘密証書遺言とは、遺言者が自身で作成した遺言書を封入し、遺言書作成に用いた印章で封印したものを、公証役場で2人以上の証人と公証人に提出し、遺言書が存在していることを証明してもらえる方式になります。

遺言撤回の自由について

遺言が作成される時期は人それぞれになります。
そのため、遺言を作成した後に遺言者の考えが変わり、遺言をなかったことにしたいと思うこともあると思います。一度遺言を作成しても、その遺言に拘束されることはなく、いつでも遺言の全部又は一部を自由に撤回することが、民法で認められています。

民法1022条(遺言の撤回)

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

したがって、遺言書の中にこの遺言は将来撤回しないと書いて遺言の撤回権を放棄したり、遺言を撤回したりしない旨の契約を受遺者と結んだ場合でも、その遺言を自由に撤回することができます。

遺言の撤回権は放棄できない

民法1026条(遺言の撤回権の放棄の禁止)

遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。

たとえば、遺言書の中で遺言を撤回する権利を放棄する旨を書いていた場合や受遺者との間で遺言を撤回しない旨の合意した場合であっても、それは無効になります。

遺言の撤回の方式について

自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれの遺言も撤回することは可能です。その撤回には、一定の方式が必要とされ、遺言の方式に従って行われなければならないと決められています。

そのため、受遺者に対して「遺言を撤回します。」と口頭で意思表示をしたり、遺言を撤回したりする旨の内容証明郵便を送付するなどしても、遺言の撤回は認められません。遺言を撤回したい場合には、「遺言を撤回します」という遺言書を新たに作成することになります。

なお、遺言の方式に従いさえすれば、以前に作成された遺言の方式と撤回の遺言の方式が異なっていても問題はありません。そのため、以前作成された遺言が公正証書遺言で作成され、撤回の遺言が自筆証書遺言で作成されるといったことも認められます。

自筆証書遺言の撤回

自筆証書遺言は、自宅で保管している場合と法務局に預けている場合があります。自宅で保管している場合には、遺言の方式に従い、「遺言者は、20○○年〇月〇日付の自筆証書遺言を全部撤回する。」ことを明記し、日付、署名を自書して押印した部分を含む新たな遺言書を作成することになります。
また、遺言の内容の一部を撤回、変更することもできます。そのような場合には、新たな遺言に下記のように記します。


第〇条
第〇条 遺言者は、20〇〇年〇〇月〇〇日付け自筆証書遺言内の第〇条の「遺言者はA不動産を妻〇〇へ相続させる」とする部分を撤回し、「遺言者は、A不動産を長男〇〇へ相続させる」と改める。
その余の部分はすべて上記自筆証書遺言記載のとおりとする。
20〇〇年〇〇月〇〇日
神奈川県〇〇〇〇〇〇
遺言者〇〇〇〇〇

もし、軽微な修正や訂正の場合には、新たな遺言を作成するのではなく、内容の変更という形で対応することも可能です。変更したい箇所に加筆または削除を行い、変更した箇所に押印します。自筆証書遺言の加筆・削除・訂正の方法については、こちらの記事で詳細を記載していますのであわせてお読みください

遺言書は、最新の日付のものが有効となります。もし、遺言の内容を全部撤回した場合には、後々の混乱を避けるためにも以前に作成した遺言書を破棄して最新の遺言書のみを保管するとよいでしょう。

遺言の内容を一部撤回する場合には、以前の遺言書も一部有効なままとなりますので、その場合には、以前の遺言書と新しい遺言書の両方を保管する必要があります。

自筆証書遺言を法務局で保管している場合でも、保管の申請の撤回を求めることができます。
まず、撤回書を作成します。作成したら特定遺言書保管所へ出頭し、撤回書を提出して撤回となります。遺言書の撤回は、遺言者本人でなければできません。
なお、法務局保管の自筆証書遺言の撤回は、法務局での保管の撤回という意味なので、遺言書自体の撤回は、完了していません。自宅で保管していた遺言書の場合と同様に、新たな遺言書を作成し、以前の遺言書の内容を撤回する旨を記載します。

公正証書遺言の撤回

公証役場での撤回は、印鑑登録証明書と実印を用意し、証人2名以上の前で公証人に対して公正証書を無かったことにしたい旨を述べて、公正証書に署名捺印します。これは、撤回だけを内容とする公正証書を作成したにすぎず、遺言の内容を変更した場合には、新たに遺言書を作り直す必要があります。
新たに作成する場合は、遺言書に「遺言者は、20○○年〇〇月〇〇日付の公正証書遺言を撤回する」という内容を明記します。

秘密証書遺言の撤回

すでに作成された秘密証書遺言は、封印されているため、この封印された秘密証書遺言を変更することはできません。そのため作り直す必要があります。ただし、封を切ったうえで変更を加えたものが、自筆証書遺言としての方式をすべて充たしているような場合には、民法971条により自筆証書遺言としての効力を認められる可能性もあります。

遺言書を撤回する際の注意点について

遺言を撤回するために新たに別の遺言書を作成する場合、新たな遺言書が無効になるリスクに注意する必要があります。たとえば、公正証書遺言を撤回して、新たに自筆証書遺言を作成しようとしたときなどには、自筆証書遺言の要件を満たしていないために作った遺言が無効になってしまうことがあります。

遺言の撤回擬制について

ここまで紹介したのは、遺言者が、明確な意思により遺言を撤回する場合の方法になります。遺言の撤回は、遺言の方式に従ってするのが原則ですが、遺言者の意思にかかわらず、遺言者が一定の行為をした場合にも、民法では例外として遺言を撤回したとみなす規定を設けています。

民法1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)

1 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

民法1024条(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

具体的には以下の場合になります。
①後に作成した遺言の内容と前の遺言の内容が抵触する場合(抵触遺言、民1023条1項)
②遺言の内容と、遺言後の生前処分とが抵触する場合(民1023条2項)
③遺言者が故意に遺言書又は遺贈目的物を破棄した場合(民1024条)

①後に作成した遺言の内容と前の遺言の内容が抵触する遺言

抵触するとは、前の遺言と後の遺言が両立しない場合のことを意味します。前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。
これは、前の遺言と後の遺言の内容が客観的に両立し得ない場合だけでなく、前の遺言と意図的に両立させない意味で後の遺言が作成されたと評価される場合も含まれます。
たとえば、Xは、「Aに甲土地を譲る」との遺言を作成した後、特にその遺言を撤回せずに「Bに甲土地を譲る」との遺言を新たに作成した場合には、後の遺言は、前の遺言に客観的に抵触しているため、前の遺言を撤回したものとみなします。
ちなみに、撤回されたとみなされるのは、抵触する部分だけです。そのため、後の遺言では、触れられていない部分の前の遺言は、有効となります。

②遺言の内容と、遺言後の生前処分とが抵触する遺言

遺言者が、生前に遺言と抵触する財産処分その他の法律行為を行った場合にも、遺言は撤回したものとみなされます。法律行為とは、意思表示によって、権利義務の発生や消滅などの効果を発生させることをいいます。具体的には、売買契約が例としてあげられます。過去の最高裁判例昭和56年11月23日で、遺言を撤回したものとみなされた例をご紹介します。

最高裁判例昭和56年11月13日

Xは、Aから終生扶養を受けることを前提として、Aと養子縁組をし不動産の大半を譲る旨の遺言を作成しました。しかし、その後お互いの関係が悪化してしまい、協議離縁することになり、XはAからの扶養を受けないことにしました。

このケースは、一見するとAに不動産の大半を遺贈する遺言をすることと、XとAが離縁することは、客観的に両立しえないものではありません。しかし、XがAに不動産の大半を遺贈する遺言を作成したのは、Aからの終生扶養を受けることを前提とした養子縁組をしたという事実があったからであり、離縁したということは、XがAに対して財産を遺贈する遺言を撤回したと判断するのが合理的であるということになります。

また遺言の内容と、その後に行われた生前処分とが抵触する場合というのは、たとえば遺言で自宅を長女に相続させる旨を記載していたけれど、その後、遺言者が、自宅を売却してしまったというような場合になります。

遺言の自宅を長女に相続させるという部分は撤回されたものとしてみなされますが、撤回されたとみなされるのは、抵触する部分だけになります。遺言と抵触する法律行為は、遺言者自身がした場合に限って撤回したものとみなされます。ですから、遺言者の成年後見人(法定代理人)が財産処分した場合や遺言者の債権者が遺言の目的財産を競売にかけた場合などは、撤回されたとはみなされません。

③遺言の内容と、遺言後の生前処分とが抵触する遺言

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分について遺言を撤回したものとみなされます。また、遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも同様に遺言を撤回したものとみなされます。しかし、どのような場合に破棄とするかについては、具体的な基準がありません。遺言者が故意に遺言書の文面全体に赤色で斜線を引いたような場合に遺言書の破棄として撤回したものとみなされるとしたとする最高裁判例があります(最高ニ小判平成27年11月20日)。

つまり、遺言の破棄といえるかどうかについては、個別具体的に行為の一般的な意味から考えていくしかありません。

ちなみに破棄については、主として自筆証書遺言の場合の問題となります。もし、破棄したとはいえない場合には、自筆証書遺言の加除訂正の問題となり、加除訂正の要件を満たしていない場合、遺言は当初の内容どおりということになります。

撤回した遺言の復活について

一度、遺言の撤回がされたときは、その遺言の撤回行為を別の遺言で撤回したとしても、民法1025条に規定されているように当初の遺言が復活することは原則としてありません。

民法1025条(撤回された遺言の効力)

前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。

ただし、錯誤、詐欺又は強迫により遺言が撤回されていた場合には、撤回行為を撤回すると元々の遺言の効力が復活すると民法では規定されています。
また、最高裁判例平成9年11月13日で、遺言者が遺言を撤回する遺言を更に別の遺言をもって撤回した場合において、遺言者の意思が当初の遺言の復活を希望するものであることが明確な場合には、当初の遺言の効力が復活すると示しました。

まとめ

今回は、遺言を撤回する方法についてご紹介しました。
遺言を撤回する場合には、民法に定められた遺言の方式に従って行うことが原則となりますが、前の遺言と抵触する遺言を作成したり、法律行為をしたりした場合、遺言を破棄した場合も撤回したものとみなされます。
もし遺言を撤回するために、再度遺言書を作成したとしても、民法に従って適切に行わなければ、撤回が無効となり、遺言者にとって意思に沿わない内容で相続されてしまう可能性もあります。そのため、遺言の撤回を確実に行うためにも、公正証書遺言を作成するか、遺言書の問題について取扱いのある弁護士などの専門家に相談して有効な遺言書を作成することをおすすめします。

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弁護士 阿部 貴之 写真 弁護士法人シーライト

代表弁護士 阿部 貴之

神奈川県弁護士会所属。弁護士登録後、都内総合法律事務所、東京都庁労働局等を経て、平成27年に弁護士法人シーライトを開設。以来相続トラブルの相談実績は400件を超える。「依頼者の良き伴走者となるために」をモットーに、スタッフと共に事件解決へ向かって邁進中。好きな言葉は「二人三脚」「誠心誠意」。弁護士紹介

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